「デヴィッド・ボウイよ。大好きなの」

たかが服や持ち物と言いますが、わざわざ嫌いなものを身につけたり持ったりする人はいません。着ているものはたいてい、その人が好きなもののはずです。

だから、それがすてきだと思えば、ためらわずに伝えたほうがいい。言葉にしなければ相手にはわからない。ソウル便のお客様との出会いでそう感じました。

別の日のソウル便では、見たこともない色の大きな指輪をしているお客様がいらしたので、「まあ、きれいですね!」と思わず口に出しました。あまりに大きいものでしたし、宝石にうとい私にはガラスなのか本物なのかわかりませんが、きれいなものはきれいだから、それを素直にお伝えしました。

男性の時計など、高価なものをほめるのがいいという説もありますが、私はあまり気がつきませんでした。むしろカジュアルなTシャツをお召しのお客様に「それは何の柄でしょうか」とお尋ねして、「デヴィッド・ボウイよ。大好きなの」と教えていただき、それが話題の糸口になるといったことのほうが、多かったようです。

その人をよく見て、「すてき」を見つけて、言葉にする。これは接客に限らず、同僚や家族、身のまわりの人に向けてもいいのではないでしょうか。

大宅邦子さん
3万時間以上飛び続けた元レジェンドCA、大宅邦子さん

ささやかな言葉が爽やかな風になる

ANAの制服が変わったばかりのタイミングの機内で、うまく着こなしているCAに気づいたことがあります。私はファースト、彼女はエコノミーの担当でしたが、持ち場に戻る途中で、たまたま目にしました。

大宅邦子『新版 選んだ道が、一番いい道』(サンマーク出版)
大宅邦子『新版 選んだ道が、一番いい道』(サンマーク出版)

ファイブスターを獲得し、次々と路線を拡大していくANAはCAの人数も8000人を超えていて、乗務ごとに「はじめまして」の人がいました。彼女もそうでしたが、私は迷わずギャレーまで行って声をかけました。

「制服、とてもすてきですね。私が見た中で一番きれいに着てるかもしれない」

きっちりとして若々しく、本当に美しい着こなしでした。

あとからリーダーに聞いたところ、彼女はしばらく休んでいて、その日は復帰したばかりだったそうで、休み明けでもあり自信をなくしていたのでうれしかったと思います、とのことでした。後日、バレンタインのチョコレートとともに「過日はフライトで、おいしいお茶の淹れ方、エプロンの着方、お客様との会話のしかたなどを教えていただきありがとうございました。またご一緒することを楽しみにしています」とメッセージをいただきました。

言っても言わなくても同じようなささやかなことでも、言ったことで誰かの心に爽やかな風が吹き込むこともあります。

大宅 邦子(おおや・くにこ)
元全日本空輸 国際線客室乗務員

1953年生まれ。ANA初の「65歳定年まで飛び続けた客室乗務員」。1974年に入社後、国際線立ち上げのプロジェクトチームに参加。ANAの成長とともに、おもに国際線ファーストクラスで空の上のおもてなしを提供。滞空時間は3万時間超。ていねいに、手を抜かず、「いつでも指差し確認」の初心を忘れない姿勢で45年間のCA生活を続けてきた。食事や体調管理などの身の回りの整え方、「ほしいものより必要なものを買う」というものとのつきあい方、幼児から年長者まで同じように接する人とのつきあい方など、仕事を超えた清潔な生き方そのものが、ANAの伝説として8000人の後輩CAに慕われている。趣味は美術館めぐり、ジムでのエクササイズ、スキューバダイビング、アイロンがけ。ドローンの国家資格も取り、今度は「操縦」側の空も楽しんでいる。