イクメンや家事メンも“モラハラ夫”になる
のりすけさんは父子家庭で育ち、子どもの頃から家事を担ってきた。そのせいか、妻のやり方のすべてが未熟に見え、料理も掃除も洗濯も買い物も「自分のほうがよくわかっている」とばかりに自らのこだわりを押しつけた。そして結局、「まかせてはいられない」と自分でやるようになり、妻から家事を取り上げていった。
モラハラをする夫は、「家事育児は妻の仕事」という性別役割分担の意識を持っていることが多い。「イクメン」「家事メン」と聞くと、モラハラ夫とは結びつかないイメージがあるが、少なくとものりすけさんには当てはまらないように見える。これはなぜなのだろうか。DVや虐待などの加害者臨床の第一人者で、『脱暴力の臨床社会学』などの著書がある、中村正・立命館大学特任教授・名誉教授に聞いてみた。
「DVとは、『関係性をコントロールする暴力』です。ですからこれは、性別役割分担意識の有無に関係するとは限りません。(のりすけさんのようなケースは、)殴る蹴るなどの身体的暴力ではありませんが、相手をコントロールしようとしているので、暴力性は高いといえます。『モラハラ』という言葉を使うと、ソフトな暴力だと思われがちですが、精神的暴力は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こすこともあり、心身の両方に影響を与えるほど深刻なものです」
自分はなぜモラハラ夫になったのか
のりすけさんは、「自分がモラハラ夫だったらしい」ということを少しずつ理解していった。しかし当初は、なぜ自分がそんな言動をしてしまうのかがわからなかった。
民間団体が開催するDV加害者更生プログラムを受けてみたが答えはみつからず、途中でリタイアした。そのプログラムは、約30人が参加する講義方式で、「あなたたちはまちがっている」と否定されるところから始まり、「こうあるべきだから、考え方を変えなさい」と講師が説く。
「自分がまちがっていたことは事実ですが、そのメカニズムを理解したからといって、本当にモラハラが治るものなのかと疑問に思いました」
そんなとき、あるカウンセラーから、「加害の根っこは成育過程にあるのではないか」と指摘された。