暴力を容認する価値観や習性を修正する

中村教授は、脱暴力支援に取り組む「一般社団法人UNLEARN(アンラーン)」(京都市)の代表理事を務めている。日本の場合は海外と違い、DV加害者に対して更生プログラムの受講を義務づける制度がなく、民間団体はそれぞれのやり方でプログラムを行っているのが現状だ。

UNLEARNは、自治体の委託を受けてプログラムを開催している。

ここでは、講義もカウンセラーによる心理療法も行わない。5~6人という少人数での対話がメインのゼミナール方式だという。

「直近2週間のエピソードを語ってもらいながら、その中に含まれている、暴力を容認するような価値観や習性を修正していきます」

「変わったか」判断するのはパートナー

一般的には、変わることができるDV加害者は非常にまれだと言われている。加害の自覚がないうえに、自分は絶対正しいと思い込んでいるからだ。

その中でも、離婚を切り出されたことをきっかけに心を入れ替えようとする人は、多いとは言えないがいる。しかし、長い年月をかけて身についた価値観や習性を変えるのは、たやすいことではない。

団体によっては、数カ月で受講修了というプログラムもあるようだが、UNLEARNでは、「何カ月/何年通ったら卒業」という区切りは設けていない。4~5年通う人は多く、なかには15年通い続ける人もいるという。

「『努力したから、自分は変わった』と言っても、それは自分の評価でしかありません。変わったかどうかを判断するのは、あくまでもパートナーです。もし言い争いが起こっても、互いに話し合い、理解し合うことで収束できるようになるところまでは持っていきたい。それには、被害者の協力や理解も必要です」と、中村教授は語る。

「もっと早く、自分の行為の意味に気づけていたら」というもどかしさが、のりすけさんにはある。家族の再生を願いながらも、内省と苦闘の日々は続く。

林 美保子(はやし・みほこ)
ジャーナリスト

北海道出身。青山学院大学卒。DV・高齢者などの社会問題に取り組む。2013年より日刊ゲンダイ「語り部の経営者たち」を随時執筆。著書に『ルポ 難民化する老人たち』(イースト新書)、『DV後遺症に苦しむ母と子どもたち』(さくら舎)などがある。