「対等な関係」の作り方がわからない
妻にはよく、「夫婦は一心同体だ」と言っていた。夫婦といえども、別人格の自立した大人同士であるという認識が著しく欠如していた。
「夫婦は対等だとか、相手の考えや感情を尊重すべきだと言われても、夫婦といえば、大正生まれで対等とは程遠い祖父母しか見たことがなかった。そのために、どうしたら相手を尊重する関係がつくれるか、方法がわからないのです。だから、『節約すべき』『掃除も洗濯も、私がイメージする通りに完璧にすべき』という、自分が信じる『正しい姿』『あるべき姿』を押し通そうとして、他の人がそこに当てはまらないと責めてしまう。おそらく、私のようなモラハラ人間は多いと思います」
先が見えない苦しみ
別居してから2年、ずっと先が見えない苦しみが続いている。妻は、弁護士を立ててきたくらいだから、「いつ、離婚調停の知らせが来るかわからない」という恐怖心もあった。
別居後に誕生した第2子の娘には、まだ一度も会っていない。それでも、のりすけさんは、自分からは子どもに会うことを求めてこなかった。
「妻は私が怖くて逃げたのですから、私が一方的に気持ちをぶつけると関係が壊れてしまうと思ったのです」
妻の負担にならないように、子どもに会いたい気持ちを我慢し続けた。
「これは、地獄ですね。精神的にはだいぶおかしくもなりました」
街中で、仲のよい親子連れを見てパニックになり、叫んでしまったこともあったという。
昨年7月、断酒をスタートさせた。
「少しでも妻の恐怖心を和らげることができればと思いました。それぐらいのことをしないと、自分は変われないという思いもありました」
今年4月から、オンラインによるペアカウンセリングを開始した。妻の恐怖心が薄れ始めたことで、カウンセラーの同席を条件に画面上の対面が可能になったのだ。子どもたちの近況を聞いたり、子どもたちのために夫婦として何ができるのかを考えたりといった話し合いをしている。カウンセラーは同席しているが、口をはさむことはない。
妻との会話の中で、妻の考えを尊重できるようになってきたという感触がある。最近では、妻から子どもたちの画像や動画がたくさん送られてくるようになった。ただ、妻子の住所を知らされるまでには至っておらず、まだ、どうなるかはわからない。