「NISA iDeco 併用」田中香津奈

個人の資産形成を促すために国が用意している制度、NISAとiDeCo(個人型確定拠出年金)。資産を増やすためには、この2つの制度をどのように活用すればよいのだろうか。「長期積み立て」に関する知見にたけた敏腕ファイナンシャルプランナーが制度についての解説とアドバイスを行う。

NISAとiDeCoの大きな違いは「自由度」

マネー本や金融情報サイト頻出のキーワード、「NISA」と「iDeCo」。どちらの制度も税制上の優遇を受けられるというが、違いはどこにあるのだろうか。

「NISAは株式投資や投資信託などで得た運用益、配当金などが非課税になるメリットがあります。一方、iDeCoは運用益が非課税になるだけでなく、掛け金が全額所得控除されるため、税制上のメリットはより大きなものとなります。さらに、給付を受け取るときにも優遇措置があります。ただし、運用する金融商品は金融機関により異なりますが、上限が35商品と定められているので、NISAよりずっと少なくなります」と解説するのは、ファイナンシャルプランナーの田中香津奈さん。

そう聞くと、税制上のメリットが大きいiDeCoを優先して活用したほうがいいように思えるが、田中さんは「個人のライフプランと、それに対する考え方による」と釘を刺す。

「いつでも払い出し可能なNISAに対し、私的年金制度として位置づけられているiDeCoは60歳以降でないと引き出すことができません。流動性という点に大きな違いがあるのです。例えば、子育て中でこれから教育費がかかるような人であれば、老後資金より目先の生活費、教育費をどうするかといったことのほうが重要かもしれません。そういった方には、iDeCoをおすすめはしません」

では、NISAに比べて自由度が小さいiDeCoが向いているのはどんな人だろうか。

「前述のとおりiDeCoは税制上の優遇が大きいので、税率の高い人、つまり所得が高い人ほどメリットが大きいといえます。高収入の方はもちろん、公務員など倒産や解雇で収入が途絶える可能性が低い方も向いているといえるでしょう」

例えば、課税所得700万円(年収だと1,000万円前後)の会社員であれば、所得税は23%で97万4000円、住民税は一律10%と計算して70万円、所得税と住民税の合計で年間167万4000円を支払っている計算になる。iDeCoは掛け金が全額所得控除となるため、仮に毎月1万円を掛け金として拠出した場合、税金は年間3万9600円軽減される【1万円/月×12カ月×(所得税<23%>+住民税<10%>)】。軽減される金額は、税率が上がるほど多くなるため、税率が高く、手元に自由な資金が残せる人はiDeCoを優先して活用したほうがよいといえる。

併用で「税引き前のお金」と「税引き後のお金」への優遇をフル活用

PRESIDENT Growth読者がもっとも気になるのは「制度をどのように活用すれば、メリットを最大限享受することができるか」という点だろう。

「NISAとiDeCoは併用可能です(※)。自分のお金は『税引き前のお金』(図の紺色と金色を足した部分)と『税引き後のお金』(図の金色の部分)の2つの観点でとらえてほしいのですが、税制上の優遇が『税引き前のお金』にも『税引き後のお金』にもあるのがiDeCo、『税引き後のお金』のみにあるのがNISAです。この2つの観点を組み合わせて、ご自身にとってベストな資産形成法を選びましょう」

NISAとiDeCoを併用すれば、『税引き前のお金』と『税引き後のお金』に対する税制上の優遇を両方生かすことができる。田中さんは「国の制度をフル活用することで、将来の資産額を何千万円単位で変えることもできる」と話す。

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※田中香津奈さんへの取材をもとに編集部作成。
※紺色の部分は税金(青の部分の税率は、所得税+住民税。復興税については加味していない)、金色の部分は税引き後の手取り。紺色と金色を足した部分が年収となる。
※課税所得を計算する上での所得控除は、社会保険料(40歳以上の健康保険料・介護保険料)と基礎控除を用いた。

戻ってきたお金の散財はNG! 再投資に回すべし

ある程度の収入がある人が、より円滑かつ効果的にNISAとiDeCoを併用するためのポイントとして、田中さんは「金融機関」と「クレジットカード」を挙げる。

「2つの制度を併用する際には、同じ金融機関にすると効率的です。例えば、ネット証券の場合、両方の資産状況を1つのIDで確認できます。また、iDeCoの掛け金の引き落としは口座振替しか対応していませんが、NISAはクレジットカード払いに対応している金融機関もあります。クレジットカードが使える金融機関を選ぶと、ポイントが貯まりますので、お得感が増しますよ」

ただし「注意してほしいことが一つある」と田中さんは付け加える。

「iDeCoによって控除を受けると、納めた所得税の一部が会社員なら年末調整もしくは確定申告を行うことで返ってきます。これを『ラッキー』と思って散財してしまう人がいるのですが、投資というのはそうして戻ってきたお金や運用益を再投資に回していかないと、複利効果が得られません。NISAも同じですが、得た利益を再投資に回さないと長期投資の効果が得られません。そのことを忘れないでほしいと思います」

「NISAとiDeCoはどちらが得か」という疑問に対しては、「iDeCoで返ってきたお金をiDeCoの再投資に回すという人が、NISAとiDeCoを同じ月額、同等の商品で積み立てた場合は、iDeCoのほうがより大きな金銭的メリットを得られる」というのが答えとなる。

NISAにせよiDeCoにせよ、長期間にわたって積み立てを行うことを前提につくられた制度だ。複利効果を生かして自分自身の資産を雪だるま式に膨らませていかなければ意味がない。適切に制度を活用し、投資を続けていくことを心がけたい。

(※)ただし、iDeCoの加入対象である原則20歳以上65歳未満の公的年金被保険者のうち、企業型DCに加入し、月5万5,000円の積み立て<拠出>を行っている人はiDeCoに加入できない。

(取材協力=田中香津奈 構成=田中裕康 図版作成=大橋昭一)