「NISA ほったらかし 銘柄」田中香津奈

投資に対する知識がまだ不十分で、手間も暇もかけられない、かけたくないという投資初心者にとって、「ほったらかし投資」という言葉は魅力をもって響く。しかし、株式市場の激しい乱高下を目の当たりにすると、同時に「ほったらかしにして本当に大丈夫?」と不安も抱くだろう。ほったらかし投資で失敗しないための秘訣を、ファイナンシャルプランナー・田中香津奈さんに聞いた。

株価乱高下、本当にほったらかしにしていていいの?

「ほったらかし投資」という言葉をよく耳にする。株式などの金融商品を購入し、短期的な売買を行わず、利息、配当金といった利益による複利効果や長期的な値上がりを見込んで放置するという投資術だ。投資初心者におすすめの方法と謳われることも多いが、なぜだろうか。

「ほったらかし投資は、最近では毎月決まった金額を長期にわたり投資信託などで積み立てていくというような場合によく使われている言葉です。投資を始めるにあたって、私はまず老後資金など自分の将来にいくら必要かという目標額を決めた上で、NISAやiDeCoといった制度のどれを使うのか、そしてどの金融商品に毎月いくら積み立てていくのかを設定することをおすすめしています。このゴールと枠組みさえ決めれば、あとは口座を開設して、目標に向かって自動で積み立てていくだけ。『自分で株価の値動きを追って、利益を求めて売買を行うというような手間はかけたくない。その分、仕事や家庭といった本業に専念したい』という方に、ほったらかし投資はぴったりのやり方です。投資初心者に向いているという理由はここにあります」

こう話すのは、ファイナンシャルプランナーの田中香津奈さんだ。最初に枠組みを作ってスタートしたら「あとは何が起きても動じず、ほったらかすのが基本」だと話す。

しかし、日経平均株価は今年7月に史上最高値の4万2000円台を記録したと思ったら、翌8月5日には4451円安という過去最大の下げ幅を見せるなど、乱高下を繰り返している。こんな状況下でも、ほったらかしにしてよいものなのだろうか。

「私がご相談を受けている中にも、マーケットの動きを見て不安になり、売りたいと考える方がおられますが、私は『そのままにしておいたほうがいいですよ』とお伝えしています。それでも世の中には慌てて解約して、それを元手に違う商品を買い直す、という方がいるのも事実です。特にバブル景気などを経験した年配の方はそういった傾向が強いかもしれません。投資は短期売買で稼ぐもの、という意識が抜けないのでしょう。逆に、20~30代の若い世代は下げ局面が来てもほったらかすもの、という認識がある方が増えているように感じますね」

ほったらかし投資は「最初の銘柄選びが命」

バブル崩壊以後も、リーマンショックや大災害などにより、世界経済、日本経済はさまざまな荒波を経験してきた。今後も何が起こるか、「未来は誰にも予測できない」と語る田中さんだが、「一つだけ言えるのは、銘柄選びを間違えずに、コツコツと積み立て続けた人は利益を上げているということ」だと続ける。

「私がご相談を受けている方に、投資は面倒で損するからやらないという人がいました。『分散投資のお手本どおりに、無理のない範囲でやってみましょう』という提案を受け入れてくださり、この15年ほど全く同じポートフォリオで毎月コツコツと積み立てを続けてきました。現時点で資産を投資金額に対して約2倍にまで増やせており、自分に合った投資法だと言ってくれています」

ポートフォリオとは、運用商品の組み合わせのこと。では、どのような銘柄を選べばいいのだろうか。田中さんは以下のように続ける。

「ほったらかし投資は、最初の銘柄選びが何よりも大事です。ここ数年の事例でいえば、REIT(不動産投資信託)の割合を高めに組み込んでいた場合、積み立てを続けても利益は上げづらい状況でした。REIT自体が期間中、右肩下がりを続けているからです。もちろん今後REITが立て直す可能性もあるでしょうが、収益を上げていくことを考えると、リスクを分散して先進国株式など安定的に成長している市場を高めにセットすべきでしょう」

しかし、「安定的に伸びる市場」と言われても、何を購入すればいいのかがわからない人も少なくないだろう。そんな初心者にも人気の投資信託として、全世界株式のインデックスファンド「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」、通称オルカンの名前が挙がることも多いが、田中さんは「オルカンが一番いいかというと、そうとも言い切れない」と話す。

「オルカンは全世界株式と銘打っているだけに、世界株に均等にリスク分散できるような印象を持ちますが、実は投資先の国別内訳をみると、アメリカが6割強を占めている上、新興国株も10%近く含まれているんです。新興国株は今後上がる可能性もありますが、現在は中国などの景気が悪く、不安のほうが強いです。オルカンを買ってはいけないということはありませんが、まずその商品がどこにどれくらいの割合で投資しているかを知り、その上でご自身の資産全体のバランスをしっかり考えてから購入してほしいと思います」

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長期投資ならリバランスはしてもしなくてもよい

このように、最初に考えるべきことがある「ほったらかし投資」だが、最初にしっかり考えてセッティングさえすれば、本当にほったらかしでよいのだろうか。

「理想を言えば、定期的にポートフォリオのリバランスを行えるといい」と田中さんは話す。商品ごとの値上がり・値下がりによって、目標とする資産配分と差が生まれるため、保有商品の売買を行ってその差を埋めることをリバランスという。

「ほったらかしと言いながらリバランスするというのは矛盾するように感じるかもしれませんが、経済情勢というのは常に移ろい、変わるもの。損失を最小限に抑え、利益を最大化するためのベターな方法だと思います。積み立て続けることには変わりありません。保有資産のバランスを見直すというだけの話です。ただ、一般の方が老後資金の準備を目的に、NISAなどの制度を使って“長期投資”を行うという前提ならば、リバランスはしてもしなくてもよいと思います。例えば、毎日きっちり掃除や整理整頓を行ってリセットしたいという性格の人がいれば、多少散らかっていてもあまり気にならないという性格の人もいますよね。それよりも目標に向かって投資を続けるということのほうが重要です」

先ほどオルカンについて触れたが、投資信託はプロのファンドマネージャーが、投資先の入れ替えをはじめ、常にポートフォリオの見直しを行っている商品と言える。運用はプロに任せると決めて、投資信託だけで毎月積み立てを行うという判断もあるだろう。ただしそのときは、「何が起きても一切気にせずに投資し続ける」ことが絶対条件だ。

「1銘柄の投資信託だけで積立投資を行いたいという場合は、最初のセッティングの際に、新興国株などリスクの高い商品の組み入れ比率が大きいものを避けるということを念頭に置いてください。そうすれば、長く積み立てれば積み立て続けるほど、安定的に資産を増やしていけるはずです。投資は人との競争ではありません。『1銭でも多く儲けたい』ではなく、『時間をかけて、自分が立てた目標に達すればOK』と思っていれば、ほったらかしにすることへの不安や抵抗がなくなります。ですので、最初のセッティングに加えて、目標金額というゴールの設定が大切なのです」

「ほったらかす」と一言にいうが、そこには覚悟も必要ということだ。

(取材協力=田中香津奈、構成=田中裕康、図版作成=大橋昭一)