人間が仕事の主役として働ける時代がやってくる

「ジョブ型」という言葉の呪縛はすさまじい。「メンバーシップ型からジョブ型へ!」の大合唱に押され、経営者や人事担当者の視線はジョブ型雇用導入の一点に注がれている。ただ、いざ導入を図ろうとすると日本企業、日本社会の枠組みに納まらないことがわかってくる。それでも「日本式ジョブ型」だとか「ハイブリッド型」などと名づけ、換骨奪胎してでも無理やりジョブ型の範疇はんちゅうに納めようとする。まるで強迫観念にとりつかれているかのようだ。

ところが世界を見渡すと、ジョブ型とはまったく異なる働き方が広がっている。雇用か自営かといった分類を超越し、半ば自営業のように一人でまとまった仕事をこなす「自営型」の働き方だ。注目されるのは、そのルーツが産業革命以前と古いにもかかわらず、ITの力を借りてシリコンバレーをはじめ時代の最先端とされる地域で急速に存在感を増していることだ。

日本人の仕事に対する熱意は世界最低レベル

海外だけではない。わが国でもマスコミやジャーナリズムのかまびすしいジョブ型移行論をよそに、仕事の現場では自営型が着実に浸透している。日本のフリーランス人口はこの4、5年で1.5倍に増え、1500万人を超えたという統計がある。しかも自営型で働く人にとって雇用と自営の境界線は薄れており、社員のなかにも自営型がかなり浸透している。したがって実際に自営型の働き方をしている人は、すでに1500万人という数字をはるかに上回っているはずだ。「自営型」という名称がまだ流布していないため、本人も、周囲も、社会も認識していないだけである。

太田肇『「自営型」で働く時代 ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社)

日本の労働生産性や国際競争力は、低落傾向に歯止めがかからない。また日本人の仕事に対する熱意は世界最低レベルだ。しかし、同じ日本人でもフリーランスの熱意は欧米と比べても遜色ないほど高く、フリーランスと自営型社員は、いわば地続きである。自営型は日本の組織風土、社会風土に根ざした働き方だといってよい。そしてAI時代、VUCAの時代にフィットした働き方なのである。

産業革命以来、初めて人間が仕事の主役として働ける時代がやってこようとしている。わが国がこのままメンバーシップ型で衰退の道を歩み続けるのか。ジョブ型で欧米の後を追い続けるのか。それとも自営型で世界をリードするチャンスを生かせるのか。いま、まさにその岐路に立っている。

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