「働きやすさ投資」はベースづくり

働きやすさは「オフィスが快適である」「報酬に納得できる」「ワークライフバランスが取れる」など、一定レベル従業員が不快にならないラインが目安になるでしょう。ある程度のお金はかかりますが、職場に働きやすさをもたらす「働きやすさ投資」をしておくと従業員は健全に働くことができます。また、生産性を向上させるための活動にドライブがかかる“ベース”が整います。

働きやすさが一定レベルに至っていないにもかかわらず、やりがいだけが高いと、従業員が疲弊する「やりがい搾取」になり兼ねません。働きやすさが整っていないと不満に繋がるからです。衛生要因である働きやすさをまずは満たすことを重視しましょう。その上で、やりがいを高めることは「もっと満足感を得たい」という動機になり、やる気が向上していきます。

やりがいを「マズローの欲求5段階説」に照らして考えてみましょう。人間の欲求は「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の階層に分けられます。欲求は満たされると上の階層に移ります。

たとえば「就職当初は職場を待遇面で選んでいたけど、仕事の幅が広がり、任せられる裁量が大きくなるにつれて、多くの同僚に認められたくなった」となるかもしれません。次第に「取引先に貢献したい」「マーケットに影響を与えたい」という方向に欲求が変化し、最終的には「この分野での第一人者になりたい」という欲求(自己実現欲求)として結実する人もいるでしょう。

もちろんやりがいは人それぞれですから、自分自身の欲求は何かを探求していくことが重要です。

日本企業の多くは「ぬるま湯職場」

働きがいでよく誤解されやすいのが「働きがい=やりがい」と同一視されがちで、“働きやすさ”の要素が抜けていることです。それが間違いであると断定するつもりはありません。しかし、さまざまな職場を調査し、全国の顧客の皆さんと向き合ってきて思うのは、働きがいは働きやすさとやりがいの両輪の関係にあり、そのどちらか一方が損なわれては成立しないということです。

働きがいという視点で見た時、どんな職場があるのか。縦軸が働きやすさ、横軸がやりがいの4象限マトリクスでご説明します(図表2)。

4つの職場を簡単に説明するのに合わせて、従業員にとってどんな職場であるかを紹介します。

いきいき職場……働きやすさとやりがいが、両方高い職場は、理想的な「いきいき職場」。従業員はやる気に溢れ、会社も成長する「働きたくなる職場」になりやすい

ばりばり職場……働きやすさは乏しいけれども、やりがいがあるのが「ばりばり職場」。従業員にやる気はあるが無理のある働き方になるため、会社の持続可能性が高くなく、「やりがい搾取職場」になりやすい

ぬるま湯職場……働きやすさはあっても、やりがいに欠けるのが「ぬるま湯職場」。従業員は、会社の成長や自己実現に関心が薄いが、働きやすいため、居続けてしまうリスクがある。文字通りの「ぬるま湯職場」になりやすい

しょんぼり職場……働きやすさもやりがいも、両方不足しているのが「しょんぼり職場」。従業員は疲弊し、モチベーションも湧かない「やる気がなくなる職場」になりやすい

現在の日本企業に最も多く見られるタイプはぬるま湯職場だと考えています。ただし現在がどの象限の職場であっても、世の中が変われば職場も変わる可能性があります。