エリート大学に行くかどうかで将来的な賃金は変わらない
2002年に発表されたデイル&クルーガーの研究では、エリート大学に受かったが行かなかった人と実際に入学した人を比較したところ、将来的な賃金は変わらないという結果が出ています。なお、貧困家庭出身者の場合には、大学の質が賃金に影響することもわかっており、これは先の質問で述べたこととも符合します。
こうした先行研究を踏まえ、双生児法を用いて日本における学校の質と賃金の関係を調べたのが、教育経済学者の中室牧子氏です。その結果は、教育年数の差は賃金に一定の差を生みますが、どの大学に行くかは将来の賃金に影響しない。特に一卵性双生児のきょうだいが、一方は偏差値の高い高校、他方がそうでない高校に行き、大学も偏差値の違う大学に行ったとしても、その差はその後の賃金には影響していないことがわかりました。
進学する高校や大学が将来に大きく影響すると思っていた人にとっては、かなり衝撃的な結果ではないでしょうか。学校の教育によって将来が変わってくるのではなく、もともとの能力が学校を選ばせているというのですから。
受験当日に体調が悪くて、普段できていた問題が全然解けなかった……。少なくとも、そういうトラブルで狙っていた学校に入れず、不本意にも低いランクの学校に甘んじなければならなかったとしても、「人生終わった」などと悲観する必要はなさそうです。それで自暴自棄になって、人生を捨ててしまうのではなく、その後もその人なりに能力を育てて発揮し続けさえすれば。
そもそも「いい学校」とはどんなところか
ただ学校の質、つまり教育レベルが子どもの将来にまったく無関係とまでは、言い切れません。先述の中室氏の研究における学校の質は偏差値で表されていますが、アメリカの行動遺伝学者キャサリン・ハーデンらの研究では学校のSES(社会経済状況、ここでは生徒の家庭のSESの平均値)を見ています。
ハーデンらの研究でも学歴ポリジェニックスコアの高い生徒はどんな学校でも優秀で、これは中室氏の研究と一致します。また先の質問でも述べたように、ポリジェニックスコアが平均もしくは低い生徒に関して言えば、SESが高い生徒の多くいる学校だと脱落しにくいことがわかっています(それでもポリジェニックスコアが著しく低い生徒は脱落しますが)。
それでは、結局「いい学校」には行った方がいいのか、行かなくてもいいのか。これは何をもって「いい学校」とするかによるでしょう。人間は、自分と同じようなタイプや知能の人間と友達になろうとします。そういう人たちの集まりの中にいると居心地がいいと感じるわけですね。もともとの学力がそんなに高くなかったとしても、試験のヤマが当たったとかで難関高校や難関大学にたまたま合格するということはありえるでしょう。
しかし、あまりにも自分の能力と周りの能力がかけ離れていると、学業にもついていけず、辛い思いをすることになります。親は子どもを欲目で、「ちょっと頑張れば、いい学校に入れるのに」と思ってしまいがちです。けれど、「ちょっと頑張る」のと「ものすごく無理をして頑張る」のでは、大きな違いがあります。