Q4.日本はどんな国を目指すべきか?
日本経済が活性化する鍵は、成長するアジア市場との距離を日本がどのくらい縮められるか、にかかっています。戦後の日本は「ものづくり立国」として成長してきました。その主役が自動車メーカーであり、家電メーカーでした。TPP参加によって、こうしたメーカーの海外進出が加速されるでしょう。そういう意味では空洞化が起こるのかもしれませんが、それを補って余りある、物品やサービスの流れが日本からTPP加盟国へ押し寄せるはずです。
これからの日本は「グラビティ立国」を目指すべきです。グラビティとは引力のこと。国際貿易の分野には、二国間の貿易量は距離が近いほど、両国の経済規模が大きいほど増えるという「グラビティ・モデル」という考え方があります。
今まではその引力があまり働きませんでした。なぜかといえば日本以外のアジアの国々の経済規模が小さかったからです。たとえば、日本に次ぐアジアの経済大国だった20年前の中国のGDPは日本の8分の1、韓国にいたっては10分の1以下しかありませんでした。でも今は違います。両国はもちろん、ASEAN諸国やインドも急速な経済発展を遂げ、貿易のグラビティが十分働くところまで、各国が成長してきています。
それを加速させるのが各種の貿易協定であり、その集大成ともいえるのが今回のTPPなのです。
日本からほかの加盟国に何が出ていくかというと、まずほとんどの消費財です。たとえば、資生堂の化粧品、ユニ・チャームの紙おむつや生理用品、大正製薬の胃腸薬、ライオンの洗剤などです。もちろん、現地生産のほうが有利であれば自動車や家電と同じように、海外進出が加速するでしょうが、すべてがそうとは限りません。
製造業だけではありません。公文やベネッセといったサービス産業、ファミリーマートやローソン、ユニクロなどの流通業、吉野家に代表される外食産業も大変な勢いでアジアに出ていますから、TPPによってさらにその動きが加速するでしょう。アニメなどのコンテンツ産業も有望です。
一方で、日本の医療や介護制度はもっと大胆な改革が必要です。日本の医療の質は高く、一時、海外から患者を呼び込もうというメディカル・ツーリズムが話題になりました。TPPに参加したら、患者を呼び込むだけではなく、医療そのものをグローバルな視野で改革するという発想も十分検討すべきです。医療がその典型ですが、日本人が日本人のために日本国内で実施しているサービスを、もっとグローバルな視点で改革していく。TPPがそのよいきっかけになるのは間違いありません。