ピア効果はスポーツの分野でも観測されている。過去の研究によると、徒競走をする際に、隣のレーンの走者が自分と同じくらいの速さの選手だと、勝負へのモチベーションが高まり、いつも以上に高いパフォーマンスを発揮できることが実証されている。

例えば米国の人気プロゴルファーであるフィル・ミケルソンは、とある試合のインタビュー後に「今回は、タイガー(ウッズ)とプレイしたことによる相乗効果で自分のスコアを高めることができた」というコメントを残している。

なるほど、自分の生産性を上げるには、自分より「仕事ができる人」「勉強ができる人」と一緒に行動すればいいということか。残念ながら結論はそう単純ではない。本稿では米プロゴルフ協会(PGA)のスコアデータを通して、周囲の環境を味方に取り込みつつ、パフォーマンスを上げる「正のピア効果」を得る条件を紹介したい。

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同伴者との能力差があるほどパフォーマンスが下がる

より具体的にいえば、米プロゴルフ協会(PGA)のスコアデータを用いて、同伴で競技する選手同士の能力差が選手個人のスコアにどのような影響を与えたのかを分析した。能力が近い選手同士が競うケースが選手にとって理想的なのか、もしくは実力が離れている選手同士が競う方がいいのか――この点に絞って分析を行った。

先に結論からお伝えしたい。分析の結果、同伴競技者との能力差が拡大すると、選手本人のパフォーマンスが低下する。能力を示すハンディキャップの値が上位33%の選手と下位33%の選手が同じ組にいるとき、能力が低い選手は平均して1.5打スコアが悪化することがわかった。

つまり、同伴競技者との能力差拡大は、特に実力の低い選手には負の影響があることがわかる。PGAでは一打によって獲得賞金に大きな差が生じることを考慮すると、「負のピア効果」が大きな影響を与えていると言える。

今回は、日常的に感じるピア効果が、データを用いた科学的な分析よって観測されるかどうかに迫っていきたい。特に、PGAの同伴競技者が特定の条件下でランダムに振り分けられていることを用いて、一緒にプレイする同伴競技者と、選手本人の能力差がスコアにどのような影響を与えているか、より具体的に見ていこう。

「能力差1ポイント上昇」で平均約0.01打悪化する

今回の分析をするにあたって、PGAの1999年から2006年の試合データを用いた。これはPGAが発表している公式記録だ。

調査対象は、世界各国からPGAに出場した男子のトップゴルファー。期間中に開かれた組み合わせが全てランダムに決まっている試合のみのデータを用いていた。今回選手の能力値の指標として用いたのは、コース難易度を考慮した前年の年間公式スコアの平均である。これは類似研究であるGuryan,Kroft&Matthew J(2009)に倣った。