昼間の提案力で競合に差をつける

ただ、相手の懐に入り込むのは、飲んで仲良くなる営業と本質的に変わらない。篠原さんが目指したのは、顧客にとっての真のビジネスパートナー。そのために昼間の営業活動に注力し、顧客の利益になる提案を繰り返した。

「飲食店の新規オープン時、ビール営業担当はビールサーバーの準備やメニューづくりをサポートして食い込もうとします。私はそれらに加えて、バイト募集の求人施策や集客のためのSNS運用など、お酒とは直接関係ない領域でも提案を行いました。これまでは人間関係頼りでしたから、店舗運営はそこまで勉強していませんでした。でも、他の営業担当がやらないところまでやらないと、『こいつを切ったら、逆にうちの店が困る』と思ってもらえる存在になれません。必死に自分の引き出しを増やして提案を磨いていきました」

新規開拓の営業は失うものはないので店の課題について何でもズバッと提案するスタイル
撮影=プレジデントオンライン編集部
新規開拓の営業は失うものはないので店の課題について何でもズバッと提案するスタイル

「ズバッと指摘する」営業で信頼を勝ち取った

「昼間に握るスタイル」が確立されたのは、入社9年目に東京に転勤になってからだ。北海道時代は飲みに付き合う状態から「飲まない宣言」をする難しさがあったが、東京は最初から「私は飲めない体質」と言える。酒席への参加は週2日程度にとどめ、ほぼ昼間だけの営業に切り替えた。

提案の幅も広げた。たとえば店舗のQSC(品質、サービス、清潔さ)をチェックして、改善すべき点を指摘。「サントリーのビールを入れてもらえるなら、QSCを定期的にチェックできるスキームに向けてサポートができます」と畳みかけた。

「店舗の課題をズバッと指摘する以上、それを改善できる提案をセットにする必要があります。提案内容に自信があったからこそですが、わりとオラオラ営業かもしれません。もともと新規獲得にいくときは失うものは何もないので、思いをぶつけるやり方を実践しています」

人間関係がモノをいう業界だけあって、「うちは10年、××だから」と競合の名をあげて断られることも多かった。しかし、篠原さんには簡単に引き下がらない心の強さがあった。「断わりの返事をくれるのは、一度は検討した証拠。そう自分に言い聞かせて、『どうすれば入れてくれますか』と突っ込んでいった」という。

幸か不幸か、コロナ禍も追い風になった。営業自粛で売上が激減する現実の前では、飲食店も「10年来仲良しの営業担当」より「売上を少しでも増やしてくれる営業担当」に期待を寄せる。提案力とメンタルの強さ、そして時の運も味方して、篠原さんは飲まない営業スタイルを確立。6年連続で支店トップの成績をあげるエース営業マンへと成長していったのだ。