まさか自分が…「飲めない」体質と両親の言葉

意外だったのは、本当は飲めない体質だったことだ。再検査でアルコール体質遺伝子検査を受けたところ、アセトアルデヒドを分解しづらいタイプであることが判明。ごく少量でも眠気や吐き気などの不快な症状が出てしまう。そのことを知らずに飲んでいたのだ。

「実は思い当たるフシはありました。お客様に付き合った翌朝は、どうにもしんどくて。『寝不足のせい』と自分に言い聞かせていましたが、不摂生と体質の影響で、体に負荷がかかっていたようです」

健康診断の結果を電話で話した翌日、東京の親が札幌まで来てくれたのだそう
撮影=プレジデントオンライン編集部
健康診断の結果を電話で話した翌日、東京の親が札幌まで来てくれたのだそう

それでもビール営業マンである以上、飲まないわけにはいかない――。そんな思い込みを断ち切ったのは両親の言葉だった。

「たまたま東京に住む親から電話がかかってきたとき、世間話のつもりで健康診断の結果を話したんです。すると翌日スマホに電話がかかってきて、『今札幌にいる。すぐ会いたい』。驚いて落ち合うと、『親より早く死ぬようなことはしてほしくない』と母親に泣かれました。おおげさと思う一方で、身近な人に迷惑をかける生き方もしたくない。少なくと親よりは長生きしようと、お酒をやめる決心をしました」

「担当を変えてほしい」営業先で受けた厳しい声

問題は仕事との両立だ。今まで自分がやってきた営業スタイルができなくなることで、そのギャップに苦悩した。お酒を断れば新規を獲得できないどころか、逆に他社にひっくり返されるおそれもある。ただ、篠原さんは一方でチャンスだととらえていた。

「飲みニケーションで営業しているときから、飲まないと本当に仕事にならないのかと疑問を感じていました。他の業界はお昼の時間に商談して、冷静な精神状態で判断しますよね。一方、酒席で商談すると、お互い気が大きくなって口約束をして、次の日に確認すると『そんなこと言ったっけ?』となってしまう。ビール業界も他の業界と同じく、昼間に握るスタイルでやるべき。禁酒は、それを試すいい機会かなと」

幸い上司は理解して得意先まで一緒に事情を説明しにいってくれた。また、影響を最小限にするため、飲みの場にはこれまで通り顔を出し、ノンアルで対応した。しかし、酒席で一人ウーロン茶を飲んでいると浮いてしまう。顧客からは「それなら担当を替えてほしい」「飲めない人がいると酒席で気をつかう」と厳しい声が相次いだ。そうした声が減っていたのは、2~3カ月経ってからだ。

「酒席で鍛えられたせいか、私は飲んでも飲まなくても同じトーンで場を盛り上がることができます。たとえばカラオケがあれば真っ先に入れて、『天城越え』を全力で熱唱します。その様子を見て、お客さんが引いてしまうほど(笑)。でもそのおかげで『しらふなのに、あいつのテンションはすごい』と面白がってくれました」