男性でも分泌され、「浮気防止ホルモン」となる

オキシトシンは、性交渉、さらに愛撫や抱擁などの皮膚への接触でその分泌が増えることが知られており、「抱擁ホルモン」とも呼ばれています。そうした行動の際に、オキシトシンは、ペア・ボンド(pair bond)の気持ちを高めます。pairとは、夫婦、そしてbondは、いわゆる「キズナ(一体感)」です。こうして、パートナーとの一体感を強く持てるようになると、自分たちの子どもを協力して育てようという気持ちが、夫婦2人の間で高まります。

最近、オキシトシンを点鼻で投与することが試され、投与された男性は自分のパートナーの女性に対して、さらに愛おしいと思う気持ちが高まったといいます。しかし、全く知らない女性には興味をそそられるということはなかったと報告されています。ですから、オキシトシンは、「浮気防止ホルモン」とも呼ばれます。

仲のよい夫婦が社交ダンスをする光景は、わたしにはなじみがあります。これは、仲がいいから社交ダンスをするのではなく、社交ダンスをするから仲がよくなるのかもしれません。

イヌを飼っている人が心血管病になりにくいワケ

伊藤裕『老化負債 臓器の寿命はこうして決まる』(朝日新書)
伊藤裕『老化負債 臓器の寿命はこうして決まる』(朝日新書)

オキシトシンは、2人の“つながり”のためのホルモンですが、ペットとのふれあいでもその分泌を高めることができます。実際、イヌを撫でていると血中のオキシトシン濃度が高まるという研究もあります。またイヌを飼っている人は心血管病になりにくく、なったとしても重症化しにくいという調査結果もあります。うつ病や自閉スペクトラム症に対してアニマルセラピーが実施されています。

パートナーのいない人は決して引きこもりがちにならず、地域のコミュニティーに出ていってボランティア活動に参加して介護に協力するなど、人との関わり合いを求めるようにしてほしいです。またペットを飼うことも一案です。パートナーがいる人は、再度その人のよさに目を向けるようにしてほしいです。

犬と過ごす笑顔の老夫婦
写真=iStock.com/kumikomini
※写真はイメージです

このようなホルモンの性質や作用を理解することで、自身のリズムを把握し、リズム感も磨いていけるはずです。

伊藤 裕(いとう・ひろし)
慶應義塾大学名誉教授、同大学予防医療センター特任教授

京都市生まれ。1983年京都大学医学部卒業、米国ハーバード大学、スタンフォード大学医学部にて博士研究員。京都大学医学部助教授を経て、慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科教授。2023年より現職。医学博士。専門は内分泌学、高血圧、糖尿病、坑加齢医学。世界で初めて、臓器同士がつながりあって疾患が広がる「メタボリックドミノ」を唱えた。高峰譲吉賞、日本高血圧学会栄誉賞など受賞多数。元日本内分泌学会代表理事、日本高血圧学会理事長。著書に、『なんでもホルモン』『幸福寿命』(朝日新書)、『「超・長寿」の秘密』『いい肥満、悪い肥満』(以上、祥伝社新書)、『からだに、ありがとう 1億人のための健康学講座』(PHPサイエンス・ワールド新書)『ほっこり』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。NHKスペシャルなどメディア出演多数。