65〜74歳の3人に1人、75歳以上では半数以上が「難聴」

【2】「人の声が聞きとりにくい」聴力負債

老眼は、皆さんあいさつ代わりの“病気の自慢話”のネタにされることがよくありますが、多くの方があまり気にしないのは、聴力の低下です。実に、65〜74歳の3人に1人、75歳以上では半数以上の方に難聴が認められます。

老人性難聴は高い音が聞こえにくくなることから始まり、50歳ぐらいから起こってきます。患者さんに聴力検査で異常が見つかると、われわれ医師のほうから「何か不自由はないですか」とたずねて、初めて、そういえば、がやがやしているところでは人の話が聞きとりにくい、電話やテレビの音を大きくするようになったと言われます。聴力負債の始まりです。視力の衰えと同じぐらいに、全身の老化負債のサインとなります。

難聴はすべての人に起こるわけではないのですが、実は、恐れられている認知症の最大のリスクです。聞こえにくいので、無意識のうちに人とのコミュニケーションを阻むようになり、自分のほうから一方的に話したり、逆に無口になります。そのような状態が続くと、孤立感が生まれ、幸福感は低下します。これは「ヒアリングフレイル」として最近注目されるようになってきました。

難聴は認知症の最大のリスク、補聴器を着けることが大切

80歳でもささやき声程度、30デシベル程度の音が聞きとれることが目標にされています。難聴は、治す方法がないので、早めにいい補聴器をつけ、聞こえる体を保つことが老化負債を大きくしていかないためには重要です。

ただ、現実は、多くの方が補聴器をつけることを拒否されますし、また装着してもすぐにギブアップされます。最近はAIを利用したデジタル補聴器も開発され、うまく会話の音域を中心に増幅できるようになっています。しかし、問題は補聴器そのものだけではないようです。補聴器をつけているということで“老けて見られる”ことに対して、心理的に拒否反応を示す方も多いです。

補聴器をつける患者
写真=iStock.com/RyanKing999
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最近は、スマホの音声を聴くためにワイヤレスイヤフォンをつけている若者も多く、彼らにとっては補聴器姿も見慣れたものだと思いますし、相手の話をしっかり聞こうとする姿勢を示しているのだと自分に言い聞かせて、補聴器に挑戦してほしいと思います。