断りたいけど、断りきれない理由

職場をはじめ人間関係で明らかに立場の上下関係がある時、「断りきれない」という場面は多くの女性たちが経験していると思う。会社の上司・先輩から求められて渋々参加する飲み会、大事な取引先から誘われる食事。男性の友人たちとの飲み会でも帰りたいと思った時にそれを口にできない場面。断れば仕事を失うかも、ノリが悪いと言って次から誘ってもらえなくなるかも……危険センサーが働きながらも、断った時に起きるであろう不利益を考えて断れない。もちろん「断りきれない」ケースは男性にもあるだろうが、違いは2人きり、密室に呼び出されることへの不安感、恐怖心ではないか。

私にも若い時に経験がある。取材先からネタがあると呼び出されたら、料亭の個室に2人きりだったり、大事な話だから外では話せないと言われマンションの1室に連れていかれたりしたことを。そんな時は身を固くし、いざとなったら逃げられるようドアの位置を気づかれないよう確認していた。

あまりに不安な時は会社の先輩に「何時までに帰らなかったらポケベルを鳴らしてほしい(当時は携帯ではなくポケベルだった)」と頼んで出かけたこともある。それでも何かあれば、「行ったほうが悪い」と責められただろう。そうした不安を口にすることも憚れた。「自意識過剰」と嘲笑されることを恐れたのだ。

「密室に男女2人きり」のリスク

中には単身赴任先の官舎に夜回りに行くと、「密室で2人きりは良くないから」と外の公園で話をしてくれた警察官もいる。それは女性のことを案じてというよりあらぬ噂を立てられないよう自身の身を守るためだったかもしれないが、密室で2人きりになるリスク、どちらが立場的に優位かをわかっていた部分もあるだろう。

性暴力や性的同意の問題を考えるとき、男性側は自分たちが持つ特権性や優位性にあまりにも無自覚なことに苛立ちを覚える。

富山県で起きた実の父親による性的暴行事件では、検察側は、父親が事件前から女性に暴力を振るうなど恐怖心を抱かせており、女性が妹に被害が及ぶことを恐れていたこと、家族の生活が父親の収入に頼っていたことから断れなかったと主張。だが父親は「娘は抵抗できない状態ではなかった」と無罪を主張した。生計を父親に頼る状況で、そして自分が断り家を出れば妹に被害が及ぶことが想像できる状況で、どうして強く拒絶できるというのだろう。