日常的にオーバードーズ、自殺の危険性も
21年から22年に埼玉医大に市販薬のオーバードーズで搬送されたり来院したりした25人を対象とした調査では、女性が6割強の16人、平均年齢は23.3歳だった。目的は「死ぬため」が最多の17件、「気分不快感の解消」「気分や意欲をあげるため」が続いた。
また、乱用や依存度の重症度を測ると、外来治療や集中治療が必要とされる中度以上が9人と3割超、日常的にオーバードーズをしていて依存が進行しているのが7人と3割程度だった。
考察では、「メンタルヘルスの不調を抱えながらもどうにか社会生活を送っていて、精神科医療や相談支援等につながっていない若者が自殺手段や不快気分の解消、つらい現状を忘れる方法として市販薬を過量服用している現状がある」「『市販薬の過量服用』であっても、自殺する危険性が高い心理状態であること、さらには依存症が加わると自殺の危険性がより高まること」「若者が捉える多様な心理社会的問題に対して、医師だけでなく看護師、薬剤師、臨床心理士、精神保健福祉士等が協働し、患者一人ひとりに対しての精神的治療を含む支援を提供することが重要である」などをあげている。

高校生に広がる市販薬の乱用
若年層全体では、どの程度の浸透がみられるのか。精神科臨床や救急医療の現場で若年層の市販薬乱用の増加が顕著にみられることをうけ、国立精神・神経医療研究センターでは21〜22年、全国の全日制高校に通う高校生を対象に、初めて市販薬の乱用実態について調べた(薬物使用と生活に関する全国高校生調査)。
飲酒や喫煙を含めた薬物使用の状況や、インターネットの使用時間などの生活実態を把握するための調査で、大麻などの違法薬物に加えて市販薬の乱用経験についても聞き、4万4613人を分析対象とした。
市販のせき止め薬、風邪薬、解熱鎮痛薬を、過去1年間に治療目的ではなく「ハイになるため、気分を変えるため」に決められた量や回数を超えて使用することがあったかどうかを聞き、全体の1.6%が「ある」と推計された。男性が1.2%、女性が1.7%と女性の経験率が高く、学年が上がるにつれて増加していた。
一方、大麻や覚醒剤などの違法薬物についての使用経験では、大麻使用の経験率がもっとも高く、大麻の過去1年の経験率は全体が0.16%、男性が0.17%、女性が0.08%で、同様に学年が上がるにつれて増えた。これと比較し、市販薬乱用の経験率は10倍に相当する。
調査では「市販薬の乱用が違法薬物よりも深刻に広がっている可能性を示唆する結果といえる。また、市販薬乱用の経験率は男性よりも女性の方が高く、性差という観点においても大麻とはリスク層が異なる」と指摘している。