※本稿は、川野由起『オーバードーズ くるしい日々を生きのびて』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
市販薬の乱用が増えている背景
国内の薬物乱用の状況をみると、近年は特に若年層における市販薬の乱用が増えている。法を破ることなく、処方箋や保険証がなくても購入できることも背景にある。急速な拡大や死亡事例の発生などを受け、国は販売個数の制限など規制をしてきたが、目立った効果はみられない。
国はさらに規制を強化していく方針だが、一方でオーバードーズの背景にあるとされる「生きづらさ」そのものへの対策ができないことには、限定的な効果だとの見方も強い。国の議論のなかでは、市販薬を販売するドラッグストアなどで、相談先を渡すなどの情報提供や声かけを行うことも重要とする指摘もある。
薬品は大きく分けて2つある。医師の処方箋が必要な医療用医薬品と、処方箋がなくても薬局やドラッグストアで購入できる一般用医薬品や要指導医薬品だ。
市販薬とはこの一般用医薬品などのことで、「カウンター越し」を意味する「Over The Counter(オーバーザカウンター)」の頭文字をとった「OTC医薬品」などとも呼ばれる。国は増大する医療費削減のため、2017年から「セルフメディケーション税制」をスタートした。一部の対象となる市販薬を購入した際には所得控除を受けることができる、市販薬の使用を促す政策だ。
手軽な市販薬のオーバードーズ
ドラッグストアにはコスメや美容関連グッズ、食料品も数多く並び、学生が訪れることも多い。多くの市販薬は数百円から数千円で買うことができる。
一方で市販薬のなかには、依存性の高い物質が含まれているものが多くある。用法や用量が決められて製品に記載されているが、これを守らずに大量、頻繁に使用するのが市販薬のオーバードーズだ。
オーバードーズが増えていることを示すさまざまなデータがある。
国立精神・神経医療研究センターの薬物依存研究部では、薬物乱用に関するさまざまな調査研究を行っている。有床精神科医療施設を対象にした調査(全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査)では、1987年からほぼ隔年で、薬物関連で通院や入院をした患者について調べている。
2022年の9〜10月に通院・入院した患者を対象にした直近の調査では、全国の有床精神科医療施設の1143施設が回答、2468症例を分析対象とした。長期間断薬しているものの通院している人なども含めると、主に使用している薬物は「覚醒剤」が49.7%で最多、ついで「睡眠薬・抗不安薬」が17.6%、「市販薬」が11.1%だった。
