高校生も含めた若年女性に薬のオーバードーズ(過量摂取)が急増している。現場に詳しい朝日新聞記者の川野由起さんは「現在、規制対象になっていない成分のオーバードーズが深刻化している実態がある」という――。

※本稿は、川野由起『オーバードーズ くるしい日々を生きのびて』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

急増する若年層のオーバードーズ

現在規制対象になっていない成分のオーバードーズも深刻化している。コロナ禍前後で顕著な増加傾向にあるのが「デキストロメトルファン」だ。

前回述べた2022年の国立精神・神経医療研究センターの調査では、市販薬を主に使う薬物とする症例の薬のうち「デキストロメトルファン含有群」は男性7.6%、女性18.2%となり女性で多い。

調査によると、デキストロメトルファンも咳中枢に作用する成分だが、乱用することで幻覚を誘発したり、興奮・錯乱状態を引き起こしたりする危険性がある。また、柑橘系果汁と合わせて服用することで代謝が阻害され、最悪の場合には血中濃度が急激に上昇し自発呼吸が抑制され、死に至る危険性もある。

また、21年に同成分を含む製品が市販薬として販売が始まったことに触れたうえで「20年調査ではデキストロメトルファン含有群に該当する市販薬は、乱用薬剤として浮かび上がってこなかった(略)。このタイプの市販薬が、この1、2年のうちに急速に若年層のあいだで支持を集めている可能性が危惧される」と関連を指摘した。

そのほか、睡眠改善薬や抗アレルギー薬に含まれる「ジフェンヒドラミン主剤群」は男性3.4%、女性15.5%となり女性で多かった。調査は「デキストロメトルファン含有群やジフェンヒドラミン主剤群という新たな市販薬の台頭がみえてきた」とし、また「女性は男性と比較し市販薬について幅広く使用し、また同時に複数の市販薬を使用している可能性が示唆される」と結論づけた。

悲しむ女性
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「自らを罰したい、傷付けたい」若い女性たち

また、救急搬送された症例をみると、高い自殺願望がうかがえるなど深刻な状況だ。21年から22年に市販薬のオーバードーズで救急医療機関7施設に救急搬送された122人を対象にした埼玉医科大学などの調査(救急医療における薬物関連中毒症例に関する実態調査:一般用医薬品を中心に)では、いくつかの傾向が明らかになっている。

まず、女性が97人と約8割を占め、平均年齢は25.8歳と若年女性が多い。また、目的は「自傷・自殺目的」が97件と最多で、「自傷」のなかには、「いなくなってしまいたい」「自らを罰したい、傷付けたい」といった理由もあった。

「その他の目的」のなかには、「元気を出したい」「嫌なことを忘れたかった」「楽になりたかった」「薬をたくさん飲みたくなってしまうから」など、現実逃避を目的としていたり、薬の依存性につながるような理由もあげられた。

薬の入手経路は実店舗での購入が6割強で、オーバードーズに使用された市販薬は83種類189品目に及んだ。