「自分も過去にまずいことをやったのでは」という男性の不安

そうやって職場でマジョリティを占める男性たちを、さりげなく免責するのがパターン化している。

武井氏は「男性を免罪し、彼らの罪悪感を払拭するような報道は、ある種のガス抜きの役割を果たしているのではないか。自分は過去にまずいことをやったのではないか、と一部の男性たちは今、とても不安に思っている。そこで女性が自分たちも悪いところがあったと言うと、少しほっとするのだろう」と指摘する。

しかし現実には、テレビ界の構成員も意思決定層も、男性に大きく偏っている。

ここで、日本民間放送労働組合連合会(民放労連)女性協議会が2023年に発表した在京キー局の女性の割合を見てみよう。社員全体の25.4%が女性で、女性が元々少数派であることがよくわかる。これが管理職になると18.1%、局長では16.8%と、女性の割合はどんどん減っていく。

役員になると、わずか8.3%しかおらず、実は今回初めて、全局で女性役員ゼロを脱したというような状況だ。テレビ局の中核であるコンテンツ制作・編成部門に限って見ると、女性は全体の20.3%のみ、局長はわずか8.0%で、男性が強い決定権を持っていることが見て取れる。

在京キー局の管理職の80%は男性、その責任が抜け落ちている

これだけ権力勾配が明らかに男性側にあるのに、セクハラを受けるのは女性の意識にも責任があると言ったり、相談を受けた女性の対応ばかりクローズアップするのが、いかにバランスを欠いたものであるかわかるだろう。圧倒的に数の多い男性の上司や先輩、同僚の責任は、まるで彼らが透明人間であるかのように抜け落ちている。

「この男社会を、自分たちが率先して本格的に変えていくつもりはない。女性の邪魔はしないけど、自分自身は別に行動に移さなくていい。女性が何とかすればいい、と思っている男性は多い」と菊地氏は指摘する。「欧米のフェミニズム運動では、女性を助けてくれる男性が多いけれど、日本でちゃんと支援してくれる男性は本当に少ない」と話す。

しかし、メディア業界のセクハラは、女性の力だけで何とかすればいいような問題なのか。