「セクハラ加害者への処分が軽い」という被害者の実感
フリーアンサーの項目ではさらに、「加害者への処分が軽い」「加害者の適切な処罰や異動を求める」「被害者の保護をきちんとしてほしい」という回答が多くあったことから、「加害者ではなく被害者が異動させられる、という事例が多くありそうだ。被害者が異動を希望したのであればまだしも、加害した側がそれまで通りでいられる、ということでは、被害者の救済にもならず、会社はハラスメントを容認していることになる」とMICは結論づけている。
この結果を見る限り、メディア業界の女性に対する社内でのセクハラは依然として深刻で、しかも先輩や上司といった身近な相手によるものが多いことがわかる。加害者にならないよう、男性に対する啓発活動がもっと必要であり、加害者の処罰と被害者の保護も不十分だ。それなのに「女性たちの意識にも問題がある」と言って済ますような報道をするのは、不誠実ではないのだろうか。
そもそも厚労省が23年度に行った「職場のハラスメントに関する実態調査」と比較しても、メディア業界はセクハラが多い。厚労省の調査だと、過去3年間に勤務先等でセクハラを受けたと答えた人は6.3%。それに対し、MICの同年の調査では、18年以降の5年間で17.3%がセクハラを受けたと答えている。調査対象年数は2倍弱なのに、セクハラを受けたという人の割合は3倍近い。
TBSは「番組の編集方針はお答えしていない」という回答
男女雇用機会均等法にはセクハラ防止の配慮義務があり、労働契約法にも、安全配慮義務や職場環境配慮義務がある。被害をなくすには、こうした企業側の法的義務や、働く人たちの権利を周知していくこともマスコミの役割だが、今回の報道特集では取り上げていない。
1、なぜ加害男性や加害行為を看過してきた男性についてもっと詳しく報じないのか
2、なぜこうした法的側面を取り上げないのか
これらをTBSに問い合わせてみたところ、「番組の個別の編集方針については従来よりお答えしていないが、人権問題については引き続き取材していく」との回答だった。

菊地氏は「職場での女性の扱われ方について、もうそういう時代ではない、という言い方がよくされる。今回の報道特集でもそうした発言があった。これは日本のジェンダーの論じられ方でよくあるパターン。でも時代が変わったから、私たちも変わらなきゃいけない、というのは違う。人権の問題なのだから、常に普遍的に問われるべきことだ」と指摘している。
「メディア業界における女性の扱いを考える」とは、女性の問題を他人事のように切り離して考えるのではなく、男性が圧倒的優位を占めるこの業界で、これまで何が触れられないできたか、何をかばい合ってきたかを明らかにしていくことであり、セクハラ問題はその一つに過ぎない。
コーネル大学Ph. D.。90年代前半まで全国紙記者。以後海外に住み、米国、NZ、豪州で大学教員を務め、コロナ前に帰国。日本記者クラブ会員。香港、台湾、シンガポール、フィリピン、英国などにも居住経験あり。『プロデュースされた〈被爆者〉たち』(岩波書店)、『Producing Hiroshima and Nagasaki』(University of Hawaii Press)、『“ヒロシマ・ナガサキ” 被爆神話を解体する』(作品社)など、学術及びジャーナリスティックな分野で、英語と日本語の著作物を出版。