弁護士は「加害者を許すことにつながる誤った発信」
ハラスメント問題に詳しい武井由起子弁護士はこれを見て、「被害者に対して自分が悪かったと思わせる内容になっているだけでなく、視聴者に対しても、被害者が悪かったのだと思わせる内容になっている。本質から目をそらさせ、加害者を許してしまうことにつながり、誤った発信だ」と言う。
「ここで紹介すべきは、こんな目に遭ったのに、抗えない空気があってがまんしてきたが、本当におかしいのでなくさないといけない、という内容ではないか。ハラスメントは声を上げられない人をターゲットにするもの。自分たちにも責任があったというようなことを被害者側に語らせるのは、こうしたハラスメントと同じ構造になっていないか」と指摘する。
社会学が専門の菊地夏野・名古屋市立大学准教授もこの番組について、「批判の矛先を、メディア業界の男性社会に向けたくない。男性も女性も同じく責任がある、というイメージを作り出したい」というように感じたという。
「女性差別とは元々、女性から色々な権利や経済力を奪った上で、女性にそれは自分自身のせいなのだ、自分の個人的な責任なのだと思わせるもの。このため女性は周りと連帯できずに立ち上がれず、立ち上がった人がいても孤立させられてしまう」と説明する。
「この番組では、怒っている女性がほとんどおらず、反省している女性ばかり出てくる。そこが本当に、性差別社会を反映している」と指摘する。
なぜ「セクハラに対応しなかった」という女性を強調するのか
要は、女性に自責の念を持たせ、その一方で男性を免罪しているということだ。
実際に反省すべきは、職場で重い権限を持っている男性管理職であるはずなのに、彼らへの詳しい取材はなく、女性たちがセクハラ被害を受けて苦しんだり悩んだりする状況が起きていることに対する、彼らの反省の弁もない。
番組では、一番年長の男性キャスターが「報道機関として人権意識を啓発していく立場なのに、まさに逆で、役割を果たしていなかった」と抽象的な言い方をするのにとどまった。もう一人の男性キャスターも番組の最後に一言、「同僚の女性が嫌な思いをしているのに気づいていたのに、真剣に向き合ってこなかった」と語るだけで終わっていた。
その一方で言及されるのが、後輩の女性からセクハラの相談をされたのに、きちんと対応しなかったという女性側の落ち度だ。この番組以外でも、必ずと言っていいほど、部下や後輩の女性の相談に対応しなかった女性たちの責任が強調される。中居・フジテレビ問題を受けて、女性のセクハラ問題について取り上げる番組や記事は他にもあり、そこではもっと被害女性たちに寄り添った内容のものが多いが、それらも例外ではない。