「聞く営業」の欠点

“聞く営業”スタイルで、どうにか人並みに売れるようになってきたころのこと。

わたしの胸の中に、ある大きな目標が浮かび上がりました。

「一度でいいから営業でMVPを獲ってみたい!」

当時勤めていた会社は、社内表彰が盛んな文化。

3カ月ごとの営業成績でMVPが決まり、まとまったインセンティブがもらえます。

入社以来、ステージに立って表彰されている先輩たちを見るたびに、「もしいつか自分もあの舞台に立てたら、すごく自信がつくんだろうな」と憧れていました。

もちろん「20代で奨学金完済」という目標もあったので、高額インセンティブが強力な魅力を放っていたのは言うまでもありません。

年間でいちばん大きな金額が動く表彰式が、3カ月後に迫ってきました。

幸い、どうにか最低限の売上目標は達成できるようになっていたわたし。

とはいえ、社内にはツワモノだらけ。今のわたしの売上ペースでは、MVP争いにすら食い込めないレベルです。

過去データ的には、普段の1.5倍〜2倍ほどの営業成績を叩き出さなくては……。

こりゃあもう大変な数字です。

わたしのお決まりの営業スタイルは、「聞く力」を活かして見込み客のお悩みを引き出し、自社サービスを使った解決策を提案するというもの。

実はこのやり方、MVPを狙うには大きな欠点が1つありました。

それは、成約までの時間がかかること。

とにかく一人ひとりに時間を割き、じっくり深く話を聞くことで信頼を獲得していたので、短期戦には向かないのです。

まして3カ月で売上を2倍にするなど、無理難題。

かといって、また「話す力」の特訓でリベンジするのも、果たして間に合うか……。

目標達成のコンセプト
写真=iStock.com/Yutthana Gaetgeaw
※写真はイメージです

ふと思いついた勝ち筋

でも、どうにかして「時間がかからない成約」を生まなきゃ勝ち筋はゼロ。

どうしたものかと考えていたとき、ふと、机の上の手帳が目に留まりました。

今までに臨んだ商談のメモがぎっしり記録された、「聞く力」特訓手帳です。

なんとなく手に取ってパラパラと眺めていると、感慨深い思いになります。

数は多くないけど、じっくり話せたからこそ、自分を深く信頼してくれるお客様がこんなにできて、本当にありがたいな。

でも、成約済みのお客様にはもう営業できないし……。ん? 待てよ?

ここで妙案を思いつきました。

これまでのお客様から、新たなお客様を紹介していただくのはどうだろう? と。

というのも、ありがたいことに「じっくり話せたおかげで、深い信頼関係ができたな」と感じるお客様が多かったことが、わたしの唯一の誇りでもありました。

この「紹介いただける関係性」が1つの武器になるかもしれない、と思ったのです。