夫を事業に引き入れ「ウマミソース」開発

海外で和食を作る時、最初にぶつかる壁は、だしだ。だしの材料となるかつお節や昆布、いりこなどはもちろん、インスタントのだしの素なども手に入りにくい。

さらに、海外では宗教や健康上の理由から厳しい食事制限をしている人も多い。そこで、原材料に動物性の材料や小麦粉、そしてアルコールを使わないめんつゆの製造を決意する。2021年夏にフォロワー数が100万人を達成し、「日本版マーサ・スチュワート」を目指すようになった頃だ。マーサ・スチュワートはアメリカで有名な料理家で、主婦としての経験を活かして自身のブランドを立ち上げ、キッチン用品などを販売しており、「カリスマ主婦」と呼ばれている。

目指すめんつゆを「ウマミソース」と名付け、2021年10月から醤油メーカーとの商談を始めたが、大手数社からは断られた。インフルエンサーとして真剣に話を聞いてもらえなかったり、「Kimono Mom」のブランドで売り出すことへの抵抗が強かったりした。

事業をひとりで進めることへの難しさを感じていたこの時期、レストラン経営を辞めてコンサルタントとして独立していた夫をウマミソース事業に引き入れた。

「私はこうだと思ったら突き進むタイプ。夫はそれをよくわかっており、冷静にアドバイスをしてくれますし、計画を実行するためのサポートをしてくれるタイプ。一緒にビジネスをするならこの人しかいないと思ったんです。だから、夫に頼み込んでチームに入ってもらいました」

2022年2月、夫とともに「ForSmiles株式会社」を設立。翌月には茨城県の柴沼醤油醸造と出会う。「モエさんのようなインフルエンサーが醤油業界に加わることは、日本文化を守る力になる」と考えた柴沼醤油醸造は、商品開発に協力したいと申し出てくれたのだ。ウマミソースの実現に向けてやっと一歩踏み出した。

2024年1月、アメリカ、バージニア州のSAN-Jの工場でウマミソースの開発をするモエさん
YouTubeチャンネル Kimono Momより
2024年1月、アメリカ、バージニア州のSAN-Jの工場でウマミソースの開発をするモエさん。開発の様子もYouTubeで公開した 

「味が良く、ビーガンでアルコールフリー」に苦労

商品開発で絶対に譲れないと考えていたのが、フォロワーからの要望が多かった、「ビーガンにも受け入れられる商品であること」だった。ビーガンとは、肉や魚だけでなく、卵や牛乳も食べないという食生活を送る人たちだ。

しかし、ビーガンの食材制限に忠実であろうとすると、味が落ちてしまう。そのうえ、日本国内で製造すると、コストがかかる。「そんなに高いお醤油を作って、誰が買ってくれるんですか」一緒に開発を進めていた醤油の専門家からの指摘に、モエさんは頭を抱えた。

2023年2月にドバイの展示会で試作品を出品した時には、アルコールの問題にも気付かされた。品質保持と風味向上のため、醤油やめんつゆにはアルコールが入っていることが多く、この時の試作品にも含まれていた。ところが、アルコールの摂取を禁じられているイスラム教徒には、その成分が含まれる商品に触れようともしない人もいた。広く海外で受け入れられるためには、アルコールを使わない商品にしなくてはと実感した。