「社員」という言葉も法律と常識では大違い
「法の常識と世間の常識がずれている」という問題は欧米にもあり、その淵源は近代国家形成の歴史に求められます。
中世ヨーロッパには主権国家はなく、貴族・教会・自治都市などの封建的社会勢力がそれぞれの身分的諸特権を固守する慣習法が支配し、君主といえどもそれを変えようとすると放伐されました。これでは市場経済促進など近代的社会改革を断行できません。
そこで絶対王政を経てフランス革命に代表される市民革命が起こると、封建勢力を統制する強い権力をもった主権国家が成立し、その立法によって社会改革を断行するようになります。その結果、国家が新たに制定・執行する法規範と、慣習的な社会規範(=世間の常識)が衝突する事態が起こったのです。
日本では明治維新後に欧州の法体系が移植されますが、当然ながら舶来の国家法と日本の伝統的社会規範との溝は深く、課税や徴兵を巡って明治政府に対して民衆の強い反発が起きます。
さらに第2次世界大戦後は憲法などでアメリカの影響を受け、新たな「法と世間のずれ」が生まれました。
たとえば日本で「社員」と言うと、世間的には会社の従業員を指す。ところが民法や会社法など法律では「社員」は出資者(=株主)を意味します。
英語で言えばShareholderです。英米法において会社は出資者のものであり、従業員は会社と雇用契約を結んでいるだけの「他者」です。しかし日本では「会社とは従業員の共同体である」という理解が支配的でした。従業員こそ会社の構成員=社員であり、社長も従業員の出世頭。これは日本的経営の特異性から生じた、日本社会の常識と欧米由来の法体系との「ずれ」です。最近はずれが縮んでいますが。
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