メンタル不調でも、ケガや病気なら仕事を休めるのと同じ

「休職とは」ということをおさらいすると、休職には2つのパターン、意味があります。

① 就業規則上の労働契約が果たせない場合は休職する
② 法律上の安全配慮義務を果たすために、企業は必要に応じて従業員を休職させる

体の病気で考えてみると、分かりやすいでしょう。

例えば、東京で会社に勤めている人が北海道を旅行中に足を骨折して、そのまま旅先の病院で入院したとします。足を骨折して入院しているわけですから、当然、出社して仕事をすることはできません。

つまり、①の就業規則上の労働契約は果たせません。また、②の観点からも、骨折した足で会社に来られては転倒のリスクもあって危ないので、今すぐ東京に戻って出社しろ、なんて話にはもちろんなりません。骨折が治るまで休みましよう、となります。

あるいは、血圧が200ぐらいある人が夜勤のある仕事をしていたとします。そこまで血圧が高いと脳卒中や心筋梗塞を起こすリスクが高いので、産業医としては絶対に見過ごせません。

まずは日中の業務に配置転換することを提案しますが、職場によっては難しいこともあるでしょう。その場合、従業員の健康を守り、労働災害を防ぐには「一旦休んでしっかり体調を整えて血圧を下げてからまた働いてください」と、休職を勧めます。

産業医に「いったん休職しましょう」と言われたら…

このように、体の病気であれば、①や②の理由で休職になることはスッと腑に落ちるのではないでしょうか。ところが、ことメンタルの話になると、なぜか躊躇ちゅうちょしてしまう人が多いのです。日本人はなぜか、心の不調や病気に対しては抵抗感がぬぐえず、自分が悪い、自分のせいと思ってしまう人が多いものです。

でも、体の病気でも、心の病気でも考え方は同じです。むしろ、先の骨折の例であれば、最近はリモートワークが広がっているので、骨折していても家で働けるなら働いていいですよ、と逆に休職にはならないかもしれません。

女性の手を握りながら話しかける女性医師
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです

いずれにしても、体調不良のために仕事ができず、そのまま働き続けたら健康が損なわれるリスクがあるのなら、ひとまず休みましょう。その体調不良の原因が何であれ、です。

薮野淳也『産業医が教える 会社の休み方』(中公新書ラクレ)
薮野淳也『産業医が教える 会社の休み方』(中公新書ラクレ)

極端な話、上長のパワハラであろうが、親の介護が大変であろうが、転職したばかりで環境や仕事になじめないでいようが、同じなのです。理由は何であれ、例えば眠れないという事実があって、そのせいで朝起きられない、日中にウトウトしてしまうなど仕事に支障が出ているのなら、就業規則上の労働契約を果たせません。

また、寝不足の状態で出社されれば危ないですし、気分の落ち込みなどがさらにひどくなると最悪のケースにつながる恐れもあります。そうしたことを考えると、会社としても困ります。

ですから、理由は何であれ、これまでと同じように働けない状態があるのなら、休みを取って心と体を整えることが先決です。

構成=橋口佐紀子

薮野 淳也(やぶの・じゅんや)
産業医・心療内科医

1988年東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、徳島大学医学部に入学・卒業。認定産業医、認定スポーツ医、健康運動指導士、健康運動実践指導者。大手企業の産業医として日本オラクルのほか、10社以上の産業保健業務に従事。2023年より、ビジネスパーソンのための内科・心療内科「Stay Fit Clinic」を開設し院長を務める。