「筆記体って書けますか?」
昼飯時は学食が大混雑です。
50分間の昼休みを満喫する学生たちでさんざめく学食の隅っこで、安価迅速のすうどんを啜っていると、別クラスの新入生と思われる女子学生2人が歩み寄ってきました。刑事部屋で捜査の指揮を執る渡哲也さんを気取って眉間にしわを寄せ、ちゅるちゅるやる当方にどんなご用向きか。
「英語の筆記体って書けますか?」
意外な問いです。近く開催される学内行事「レク・スポ大会」用にクラスで揃いのTシャツを作る。胸元に筆記体で、学校名の「Higashichikushi」と書き入れたいので、その手本をと求められました。
お安いご用です。
渡された紙にさらさらっと書いて差し上げました。
ここで疑問が。いまの若い衆は中学や高校で筆記体を教わらないのでしょうか。当方は中学時代に習い、活字体と異なる字体が大いに気に入りました。シェイクスピアさんやクリント・イーストウッドさんになったつもりでサインの練習に努めたものです。
そのことを2人に聞くと中学でも高校でも習わなかったと教えてくれました。
2002年の中学校学習指導要領改訂で、筆記体指導は必修ではなくなったのが理由のようです。ゆとり教育の一環との指摘もあります。
うーん、文部科学省さん、それでよいのでしょうか。
海外でクレジットカードによる買い物をしたり、契約書を取り交わしたりする際には筆記体での署名の方がかっこいいです。若者の雄飛を妨げちゃいませんか。
笑顔で謝辞を告げて去る2人を見送りながら、そんなことを考えました。
美化委員の相棒のご要望に、ささやかながら早速応えられたのなら幸いです。
5カ条の誓文――野獣諸法度
キャンパスライフが本格化するにつれ、当方がただならぬ新入生であることはもはやどなたの目にも明らかです。
事件や犯罪の世界にどっぷり浸かっていた前職のことは、一部の教職員しか知りません。
最近まで高校生だった同級生たちは、正体不明の胡散臭いおっさんとどう接すればよいのか。戸惑っているに違いありません。当方が18歳の新入生なら、できれば関わりたくありません。
しからばどう振る舞うべきか。
しばし考えた末に行動規範を定め、厳しく自分に課すことにしました。「野獣諸法度」、「5カ条の誓文」とも呼びます。