壁を超えそうなピンチに今すぐにできる壁突破策

壁を超えそうなときにできる応急処置も知っておくといいでしょう。

税法上の壁は、パートやアルバイトをしている本人の控除を増やすことで、突破することが可能です。扶養の範囲で働いているうちは自分自身の控除を意識したことはないかもしれませんが、扶養されている場合であっても、壁を超えてしまいそうなときは、生命保険料控除など、自分自身の控除を申告することで所得を減らすことができます。

もっとインパクトがあり、パート主婦が活用できるものとしては、小規模企業共済等掛金控除があります。iDeCoの掛け金がこの小規模企業共済等掛金控除に該当します。iDeCoに加入すると、掛金が全額小規模企業共済等掛金控除となり、課税所得を減らすことができます。

税金を払っていないパート主婦はiDeCoによる節税メリットはないと思っていたかもしれません。私も当初はそう思っていました。ですが、考え方を変えると税金を払っていないパート主婦でもiDeCoによる節税メリットを得ることができます。

例えば129万円給与収入を得てiDeCoに年間26万4000円(月2万2000円)拠出します。この場合、iDeCo掛金の26万円4000円は小規模企業共済等掛金控除として全額所得控除されるので、給与所得控除55万円、基礎控除48万円と合わせると所得ゼロとなります。

129万円-48万円-55万円-26万4000円=0円

全額所得控除され、自身の所得税がかからないので思っていたよりも利用価値が高いかもしれません。

注意しなければいけない点は会社からの支給額が130万円(106万円で社保加入の条件を満たす場合は106万円)を超えないようにすることです。全額所得控除されるならiDeCoの掛け金上限額は月2万3000円なので、年間27万6000円拠出すれば、130万6000円稼いでも大丈夫なのでは? と思うかもしれません。でも、この場合社会保険上の扶養を外れてしまうので要注意です。社会保険上の扶養の判断と税法上の扶養の判断基準は異なり、控除される前の支給額によって判断されます。

結局今使えるお金が増えるというよりも将来のための貯蓄にはなってしまいますが、NISAで運用をしているようなら、iDeCoの活用も検討してみてください。ただし、iDeCoの加入には2カ月程度かかるため、今年活用するのは難しいです。来年以降活用したい場合には、今から準備しておきましょう。生命保険料控除の活用であれば、12月までに保険料の支払いをすれば今からでも間に合います。

また、社会保険上の扶養の壁についても、一時的に130万円の壁を超えてしまった場合であれば、雇用先の事業主が所定の証明書を提出し、一時的なものであると認められれば、扶養を外れずに済みます。

まとめ

年収の壁を正確に理解するのは難しいものですが、子どもがバイトを始める際にも必要な知識であると思います。今回話題になったことで、わが家でも中学生の子どもたちからいろいろと聞かれて説明しましたが、税金や社会保険について、特に実生活で必要な「年収の壁」については、中学高校の家庭科や政治経済などでもっとしっかり教えたらいいのではないかと思います。

本来は高度経済成長期である1961年に農業者・自営業者に比べて税負担の重いサラリーマン世帯の負担を軽くするために導入された控除が、今は“壁”となってサラリーマン世帯を悩ませる原因になっています。

厚生労働省が就業調整を行う理由を調査していましたが、根本にあるのは、頑張って働いて得た収入を減らしたくない、手取りを最大化させたいということでしょう。

支えあう社会のしくみも理解しつつ、みんなが気持ちよく働けて、生活が豊かになる使い方ができるような制度になってほしいものです。

橋本 絵美(はしもと・えみ)
はしもとFPコンサルティングオフィス 代表

6人の子どもを持つママFP&お片づけプランナー。福岡県出身。小さな頃から「大家族のママになりたい!」という夢を持ち、慶應義塾大学商学部卒業後、学生時代から交際していた夫と結婚。現在、中学2年生から3歳まで2男4女の子育て中。