職場に行くのがツライ、うつっぽくなって勉強や仕事ができないなど、病気を抱えていない人でもメンタルが不調になることはある。公認心理師のみきいちたろうさんは「特にショッキングな出来事がなくても、日常的に受けているストレス、または育った家庭で受けていたストレスからトラウマは生まれる。そのトラウマが時に、発達障害にも近い生きづらさの原因となっていることがわかってきた」という――。

トラウマから生じるうつや不安、生きづらさ

メーカーで働く埼玉県の40代男性のCさんは、特に連休明けからうつっぽさが抜けなくなっていることに苦しんでいました。これまでも休み明けはうつっぽくなることはありましたが、なんとか気持ちをコントロールして乗り越えていました。

しばらくすると、ベッドから起きられない日があり、それで心療内科にかかると、「1カ月休職しましょう」ということでした。

実は、Cさんが心療内科にかかるのははじめてではありませんでした。大学時代と、20代の頃にもかかっていた時期があり、そのときは軽めの薬が出て、すぐに通わなくなっていたそうです。

Cさんは病院から紹介されて、私のところにカウンセリングに来ました。生育歴などを聞いてみると、父親が単身赴任で不在の時期が長く、母は不安が強いタイプで、家庭内では父親代わりとして不安な母を慰めたりなどが多かったことがわかり、それがいわゆるトラウマとなり、現在のうつにもつながっている可能性が高いことがわかりました。

しかし、Cさんは「トラウマ?」と半信半疑でした。カウンセリングが進んでも、「どうしても、過去のことがそれほどのことなのかがわからない」とおっしゃられます。

オフィスで苦労し、不安を感じているビジネスマン
写真=iStock.com/recep-bg
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「夫婦げんか」が子どもに与える深刻なダメージとは?

Cさんのように、自身の体験がトラウマの原因となっているとは思えない、と考える方は珍しくありません。

この記事を書いている私も、実は専門家である一方でトラウマの当事者でもありますが、「トラウマなんて存在しないのでは?」と20年ほど前までは考えていました。私のように臨床心理を専門とする者にとっても、少し前までは実はその程度の認識だったのです。

私の場合は、夫婦げんかが多い家で、それがトラウマの原因の一つとなっていたのですが、「夫婦げんかなんかどこにでもあるし」「それが当たり前ではないにしても、トラウマになるというのはさすがに大げさでは?」という認識だったのです。

読者の皆さんもそのようにお考えの方はいらっしゃるのではないでしょうか?

現在では、夫婦げんかは「面前DV」といい、子どもにとって深刻なダメージとなることがわかっています。

公式に虐待の一種(トラウマの原因)として認定されています。自治体でも啓発活動が行われています。