「成長の跡」を見つける
褒めるところを見つける切り口の1つが、「成長の跡」を見つけることです。
業務の内容としてはまだ褒められるレベルに達していなくても、前よりは業務のレベルが上がった、できなかったことができるようになったという場合は、その成長の跡を褒めることができます。
さらに、成長の跡を褒めることで、部下は「上司はちゃんと自分のことを見てくれている」という安心感が持てます。その安心感が上司への信頼につながります。
また、成長の跡を直接把握できない場合は、どう成長したかを部下に質問し、答えてもらうことで把握することもできます。
昨日の自分より成長すればよい
ある製造業の会社の取締役の方が、こんな話をしてくれました。
「私はもともと不器用で、工場で働いていた若いころから仕事を覚えるのが遅くて、いつも上司に怒られていました。他の同僚はどんどん仕事を覚えていくので、私は落ちこぼれでした。本当につらかったですよ。だから何度も辞めようと思いました。
そんなとき、社長が本社から工場に来て、こう声をかけてくれたんです。
『君は仕事を覚えるのに苦労してるみたいだな。君は周りと比べるな。昨日の自分より少しでも成長することだけを考えなさい』
そのとき、目の前がぱっと開けた感じがしましたね。
それで半年くらいしてから社長がまた声をかけてくれたんです。『どうだ。前の自分より成長してるか?』って。それで私がどう成長したかを説明したら、『いいじゃないか! それでいいんだ。これからもそうやって頑張れよ』って言ってくれました。
もう嬉しくて、その日の帰り道に涙が出ました。そしてそのとき、この人に一生ついて行こうと思いました。そうやって頑張って、今は役員にまでなれましたよ。本当にあの人には世話になりました」
この社長は落ちこぼれの若手がいると聞いて、つらい思いをしていないかと気遣ったのでしょう。そして昨日の自分より成長することを促し、成長の跡を褒めたのです。
つらいときほど、褒めてもらえた言葉は胸に響くものです。そのため、この社長の言葉は「この人に一生ついて行こう」と思わせるほどの力を持ったわけです。
皆さんの周りにも、そんなふうにつらい思いをしている部下はいないでしょうか。
部下の仕事を見る際は「どこかミスや漏れはないか、不十分な点はないか」というアンテナに加えて、「どこか褒めるところはないか」「成長の跡はないか」というアンテナも張るようにしてみてください。
そして、良い点や成長の跡を見つけたら、その点について伝えてあげてください。