男女間格差が縮小すると男性の幸福度が高まる理由

オーデット准教授らの結果は興味深いことに、男女間格差が小さいほど、男性の幸福度も高まることを指摘しています。この背景に関して論文では明示的な説明は行われていませんが、おそらく、男女間格差の縮小が男性の人生の選択肢を増やすことにつながるためだと考えられます。

男女間格差が大きく、男性が働き、家族を経済的に支えることが一般的である場合、男性はその負担を背負い、働き続ける必要があります。しかし、もし男女間格差が小さく、夫婦共働きで家計を支えることが一般的になると、男性側にかかるプレッシャーも軽減され、「働く」以外の選択肢を選ぶことも可能となります。

このように人生における選択の自由度が高まると、自分に合った道や自分が望んだ道を選択しやすくなるため、幸福度が上昇すると指摘されています(*3)。男女間格差の縮小は、女性の人生の選択肢を増やすだけでなく、男性の人生の選択肢も増やすことにつながるため、幸福度を高めることができると考えられます。

岐路に立つ男性
写真=iStock.com/olaser
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男女間格差の縮小のための施策を実施していくことが重要

男女間格差の縮小は、社会を構成する男女両方の幸福度を高めていきます。このため、日本でも男女間格差の縮小のための施策をより強く実施していくことが重要です。

佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)
佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)

それではどのような面における格差の縮小を進めていけばよいのでしょうか。この点に関して世界経済フォーラムのグローバルジェンダーギャップ指数を見ると、日本では他国よりも政治や経済面での女性の地位が低いままとなっています。経済面では、女性の就業率や収入の格差が依然として存続しており、高い非正規雇用割合や男女間賃金格差の改善が求められていきます。政治面では、女性議員数の少なさが課題として挙げられるでしょう。

これらの課題は長年にわたって指摘されており、簡単には解消できるものではありません。しかし、今社会を構成する人々だけでなく、次世代の子どもたちがより幸せを実感できる社会にしていくためにも、さらなる施策の実施が求められます。

(*1) Audette, A.P., Lam, S., O’Connor, H. et al. (2019). (E)Quality of Life: A Cross-National Analysis of the Effect of Gender Equality on Life Satisfaction. Journal of Happiness Studies, 20, 2173–2188.
(*2) World Bank. (2011). World development report 2012: Gender equality and development
(*3) (1) Diener, E., & Tay, L. (2015). Subjective well-being and human welfare around the world as reflected in the Gallup World Poll. International Journal of Psychology, 50(2), 125–149. (2) Inglehart, R., Foa, R., Peterson, C., & Welzel, C. (2008). Development, freedom, and rising happiness: A global perspective (1981-2007). Perspectives on Psychological Science, 3(4), 264–285. (3) Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2002). Overview of self-determination theory: An organismic dialectical perspective. In E. L. Deci & R. M. Ryan (Eds.), Handbook of self-determination research (pp. 3–33). Rochester: University of Rochester Press.

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。