団塊の世代の幸福度は低いのか

それでは、日本でも人口規模の大きい団塊の世代ほど、幸福度が低くなっているのでしょうか。

残念ながらこの点に関する日本の研究はありません。そこで、団塊の世代を取り巻く状況から、幸福度が低くなっているのかを考えてみたいと思います。

佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)
佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)

団塊の世代が生まれた1947年から1949年までの合計出生数は約806万人であり、年間の出生数は250万人を超えていました。2023年の出生数が約72万人であったことを考えると、その数の多さを実感できます。

アメリカやイギリスのベビーブーム世代と同じく、日本の団塊の世代も経済面では良い環境に恵まれていました。青年期には高度経済成長期に直面し、どんどん日本が豊かになる状況を見ることになります。また40代前後にはバブル景気となり、世界経済の中でも日本が大きな地位を占める時代を経験しました。

同世代の新規学卒者の就職が多いほど賃金が下がる傾向 

しかし、団塊の世代は同時に厳しい競争にさらされる時代でもありました。

大学進学率は今よりも高くなく、大学に入るためには熾烈な競争に打ち勝つ必要があります。子どもの数が減り、大学に進学しやすくなった現在では想像もつきませんが、当時は「受験戦争」と言われるほど大変なものでした。この受験戦争によって、挫折を経験した人も少なくなかったでしょう。また、団塊の世代はきょうだい数も多く、家庭で子ども1人当たりに費やされるお金も少なかったと考えられます。これも学業面にマイナスの影響があったと考えられます。

団塊の世代が次に直面したのが厳しい出世競争です。

経済全体の環境は良かったものの、同世代の人数が多く、管理職のポストを得るためには厳しい出世競争に生き残る必要がありました。また、競争相手が多いため、管理職適齢期になったとしてもポストが足らず、管理職になれなかった例もあったと予想されます。これはその後の賃金にマイナスの影響を及ぼすでしょう。この点に関して、大阪大学の大竹文雄特任教授が分析を行っており、大卒では同一世代の新規学卒就職者数が多いほど、賃金が下がることがわかっています(*6)

結婚に関しては団塊の世代の婚姻率は高く、50歳前後の未婚率もその後の世代と比べて低くなっています。激しい競争の中で意中の相手とはうまくいかなかったとしても、パートナーの存在は幸福度にプラスに影響するため、この点では同級生の数の多さがマイナスに働かなかったと考えられます。

団塊の世代ほど幸福度が低くなっている可能性がある

以上から、団塊の世代は家庭、学業、仕事の面でマイナスの要因にさらされる反面、結婚面ではマイナスの要因がなかったと予想されます。このように団塊の世代は、マイナスの要因に直面する部分が少なくなかったため、アメリカやイギリスと同じく、幸福度が低くなっている可能性があります。団塊の世代全体が後期高齢期に入る「2025年問題」を目前に控え、医療・介護が逼迫するなか、彼らの幸福度はどうなっていくのか。そのことを考えるにつけ、人口減少は何が問題なのか考えさせられます。人口減少を前提とした日本社会の在り方を模索するときが来ているのかもしれません。

(*1)Dolan, P., Peasgood, T., & White, M. (2008). Do we really know what makes us happy? A review of the economic literature on the factors associated with subjective well-being, Journal of Economic Psychology, 29(1), 94-122.
(*2)Yang, Y. (2008). Social inequalities in happiness in the U.S. 1972 to 2004: An age-period-cohort analysis. American Sociological Review, 73, 204–226.
(*3)Forbes Japan (2023)「ベビーブーマー世代から子への「富の移転」は労働と経済にどう影響するか
(*4)Forbes Japan (2023)「Z世代は親よりも「持ち家率が高い」、米不動産サイト調査
(*5)Ye, Y., & Shu, X. (2022). Lonely in a Crowd: Cohort Size and Happiness in the United Kingdom. J Happiness Stud 23, 2235–2257.
(*6)大竹文雄(2005)『日本の不平等』日本経済新聞社

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。