主婦から正規雇用の職に就けるのは100人に4人しかいない

この数字は離死別1年後になると大きく動き、無職の割合は10%程度にまで急降下します。つまり、女性のうち無職だった人の大部分が生計を立てるために仕事に就いたわけですが、このうち正規雇用は4%ほどしかいません。ほとんどの人は非正規雇用、つまりアンダークラスです。

【図表】離死別経験のある女性アンダークラスの職業経歴
 出典=『女性の階級』、筆者作成
橋本健二『女性の階級』(PHP新書)
橋本健二『女性の階級』(PHP新書)

無職の比率はその後も減り続け、離死別3年後にはわずか6%程度に。ここからは、専業主婦の多くが離死別をきっかけに非正規の仕事に就いてアンダークラスに流入したこと、またパート主婦の多くが夫のいない非正規労働者、すなわちアンダークラスに移行したことがわかります。

正社員を辞めて専業主婦やパート主婦になるのは、それほどまでにリスクが大きいのです。これこそ、私が『女性の階級』でいちばん伝えたかったことです。

本来は20〜30年前に、女性が妊娠・出産しても仕事を辞めなくて済む仕組みがつくられるべきでした。そうすれば彼女たちはこんなリスクを背負わずに済んだはずです。そのうちの多くが再就職の難しい年齢に差しかかってしまった今となっては、社会によるどんな打ち手もほとんど手遅れと言っていいでしょう。

政府が対策するべきだったが、女性に知っておいてほしい

これから結婚・出産する世代の方は、どうかこのリスクを知っておいてください。専業主婦やパート主婦の方は自分がリスクの高い立場にあることを認識し、娘さんがいる場合はこの現実を伝えてあげてください。

そして、今正社員として仕事と子育てを両立している女性は、働き続ける上で職場でも家庭でもさまざまな苦労をしてきていることでしょう。後輩の女性たちが同じ苦労をしないで済むように、また退職せずとも済むように、声を上げ助言を送り続けてもらえたらと思います。

取材・文=辻村洋子

橋本 健二(はしもと・けんじ)
早稲田大学人間科学部 教授

1959年石川県生まれ。東京大学教育学部卒業、東京大学大学院博士課程修了。専門は社会学。著書に『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)、『アンダークラス―新たな下層階級の出現』(ちくま新書)、『〈格差〉と〈階級〉の戦後史』(河出新書)、『中流崩壊』(朝日新書)、『アンダークラス2030』(毎日新聞出版)、『東京23区×格差と階級』(中公新書ラクレ)などがある。