表現の自由と社会的責任のバランス

日本では前述したような広告が炎上するたびに、一部の文化人や政治家が「表現の自由」の名のもとにかばおうとする、外国では確実に規制される案件は、「別にいいんじゃないか」とスルーされ、日本における性的に表現する表象やジェンダーステレオタイプに対する規制は進まない。

日本の性産業がグローバル化されてしまっている今、「表現の自由」と「性産業やメディアの倫理的・社会的責任」のバランスについて、私たちはもっと真面目に取り組むべきではないか。

もちろん、第2次世界大戦中に政府の言論統制が行われて日本国民が戦争に突っ走っていった失敗から、2度と戦争を起こさないためにも「表現の自由」を擁護したい気持ちは分かる。しかし、それと女性を性的モノ化する表象をいっしょの次元で語るのはおかしい。

現状を放置すると、日本の子どもたちに女性の価値観=若さ、美しさ、セックスだと無意識に洗脳してしまうことにもなりかねない。危惧されるのは、こうした環境に生きる女性たちの自己肯定感が低くなって自らの人生の選択肢を狭めてしまうこと、また男性にとっても女性が対等な相手に見えなくなってしまうおそれもある。その結果、日本における政治家、ビジネスリーダー、理系学部、大学院での女性の数が他の先進国と比較して圧倒的に少ない現象をさらに進めてしまえば、国益を大きく損なうことにもなる。

前編で詳述した性犯罪を模したAV、ゾーニングされていない性風俗店、日本の遅れたジェンダー観が世界に発信され続け、歪んだ日本人のステレオタイプが世界中にさらに拡散されていく。そして、それが犯罪グループやセックスインバウンドを日本に呼び込む。すると日本人に対するステレオタイプはますます再生産されていく。この負のループの被害を被るのは、日本の未来を背負う子どもたちであることは忘れてはいけない。

取材協力
中村ホールデン梨華
炎上から学ぶ社会をめざすAD-LAMP代表
広告コンサルタントを経てブリストル大学修士社会起業論課程在学中。SNSにて「広告炎上チェッカー」(@Enjocheck)として活動する。広告倫理に関する講演やワークショップを行い100以上の広告を分析。炎上広告の市民による代案を展示する「市民広告 Towards Change展」を英国で開催。

此花 わか(このはな・わか)
ジャーナリスト

社会・文化を取材し、日本語と英語で発信するジャーナリスト。ライアン・ゴズリングやヒュー・ジャックマンなどのハリウッドスターから、宇宙飛行士や芥川賞作家まで様々なジャンルの人々へのインタビューも手掛ける。