横浜市教育委員会は教員によるわいせつ事件の公判で職員を動員して裁判の席を埋め、一般の人が傍聴できないようにブロックしていた。ライターの田幸和歌子さんが、地道な取材で横浜市の隠蔽を暴いた東京新聞と共同通信のふたりの女性記者に取材した――。

横浜地裁では教師の性犯罪事件の裁判がなぜか満席だった

横浜市教育委員会による「傍聴ブロック」問題をご存知だろうか。

5月21日、横浜市教育委員会は2019年度から今年4月にかけて横浜地裁で公判があった教員によるわいせつ事件で、多数の職員を動員して法廷の傍聴席に行かせ、一般の人が傍聴できないようにしていたと会見で発表した。

しかし、この会見に踏み切ったきっかけには、メディアの取材があった。

筆者がこの一件を知ったのは、東京新聞・森田真奈子記者の記事から。

「なぜか満席の横浜地裁…記者は1人の傍聴者の後を追い、確信した 横浜市教委の『傍聴ブロック』発覚の経緯」(東京新聞TOKYO WEB、5月22日)

横浜地方裁判所
写真=iStock.com/baphotte
横浜地方裁判所(※写真はイメージです)

4月下旬、横浜地裁では、被告人の名前も事件も公表していない、有名人の事件でもない公判に行列ができ、満席で傍聴できない事態となっていた。

しかも、傍聴人に話を聞こうとすると、ぶっきらぼうで強い拒絶の反応ばかり。違和感を抱いた森田記者は、組織ぐるみの「傍聴ブロック」ではないかと疑い、傍聴人の一人の後を追いかけたところ、横浜市南部学校教育事務所が入居するビルに入って行った。そこで市職員の出張記録や具体的な指示が分かる文書の開示請求をしたという。

記者の違和感から取材が始まって、公務員の動員・傍聴ブロックという不適切行為が明らかになったというのは、まるでドラマのようではないか。そこで詳細を伺うべく森田記者に取材を依頼したところ、さらに意外な事実が判明した。

神奈川県の担当記者たちは「おかしいよね」と確認しあった

「これは私個人が突き止めたわけではなく、他社との協力・連帯があったというか。むしろ私より先に地道に取材されていた共同通信の女性記者がいて、異様な行列を見ながら『おかしいよね』とお互いの違和感を確認し合ったんです」(森田記者)

なんと複数社の女性記者の違和感「はて?」が真相究明につながったのだった。女性たちの共闘・連帯と言うと、くしくも大評判の朝ドラ「虎に翼」の世界のようでもある。

そこでこの問題を突き止めた立役者の2人、共同通信社横浜支局記者(現・東京エンタメ取材チーム・文化部)の團奏帆さん、東京新聞横浜支局記者の森田真奈子さんに集まっていただき、ふたりが感じた記者としての嗅覚、「はて?」の正体や、記者同士の連帯についてお聞きした。