「教員の性暴力事件」に問題意識があったから気づいた

マイノリティの人権問題などを自身のテーマとし、幅広いフィールドで取材する森田さんと、司法担当記者として「性犯罪事件、特に子どもが被害に遭ったような事件はしっかりと取材すべきテーマ」と考える團さん。また、記者の人数が少なく、チームを組むというよりは個人プレーが基本という東京新聞と、情報共有して複数人で取材を進めた共同通信。

2人の持ち寄る情報やアプローチの仕方は異なるが、いずれも取材のきっかけは、かつて横浜支局にいた記者からの「教員の性暴力事件の公判が行われているらしい」という情報提供であり、それぞれに抱いてきた問題意識だった。

今回は同じ事件に対して共闘・連帯の形になったが、「本来は独自スクープを求められることも多いのでは?」と聞くと、ふたりは言う。

「確かにライバルではありますが、取材現場では孤独な状態になることも多く、仲間と一緒に取材することは物理的にほとんどない。そんな環境で、自分が持っている違和感とか、取材しなければいけないという問題意識に、自信がなくなることもあるんです。今回、森田さんと同じ問題を追いかけていたことは励みになりましたし、間違えていないよねと思えて、なんとなく隣を歩いている感覚を持つことができました」(團さん)

独自スクープを狙うのだけが報道取材ではない

「私も初めて法廷前で團さんと一緒になった後、『これが本当に教育委員会による動員だとしたら、ひどすぎる』という会話をしたんですね。東京新聞は人数的にもチームで取材するのが難しいので、1人で進める中、今回のように團さんや他社の記者と雑談を通して問題意識を共有できたのはとても心強かったです。特に、裁判所から出て行く市教委職員を尾行した際に、共同通信の記者を見かけたときは『一緒にこの問題を追っている』という連帯感を勝手ながら感じ、『何とかこの問題を明らかにしなければ!』という強いモチベーションになりました」(森田さん)

加えて、森田さんは「独占スクープ」に過度にこだわる業界の空気には、疑問もあると言う。

「取材の最終段階で裏付けして記事化できるか、という部分は一番難しく、当然競争になると思います。『自分が先駆けて出す』という思いが記事化のハードルを乗り越える推進力になると思う一方、現場の取材過程では連携が必要な場面も多く、複数社が動くことで行政なども対応を変えることはやはりあると思います。今回も最終的にはお互いがライバルと思っていましたが、だからといって取材段階から情報を過度に隠し合う、ということも全くなかったです。緩やかに連帯しながら取材したことで市教委の発表につながった面があるなら、良い形で連携できたのでは」(森田さん)