イギリスと日本の広告規制の違い

イギリスには、広告業界の団体が運営する広告基準協議会(ASA)が存在し、有害な性的表現やジェンダーステレオタイプを描く広告(看板サイト、新聞、ポスター、オンラインなど)を調査・規制している。

例えば、イギリスでは買春が違法(売春者は社会的弱者として守られるべき立場であるから罰せられない)であることから、東京の繁華街を練るように走っているバニラやガールズヘブンのような性産業を促進する広告カーは規制対象になる。

また、過度な性的表現や、女性が料理する傍ら男性はくつろぐといった役割分業で性別を表現する広告もイギリスでは明らかに調査対象となる。

日本でこれまで女性蔑視ではないかと炎上してきた、日赤献血ポスターの「宇崎ちゃん」、「温泉むすめ」、日経新聞広告「月曜日のたわわ」など、幼い少女にデフォルメされた大きな乳房や、「今日こそは夜這いがあるかもとドキドキする」などと描かれたご当地温泉むすめキャラなども、たとえそれが2次元のイラストでも確実に撤去対象となり得る。

広告コンサルタントを経て、SNSで炎上広告チェッカーとして活動し、広告倫理に関する講演やワークショップを行う中村ホールデン梨華さん(炎上から学ぶ社会をめざすAD-LAMP代表)によると「これらの広告は、広告自体の表現が性的であるだけでなく、広告に使っているコンテンツがもともと未成年の目にふれるべきでないコンテンツだから、イギリスでは審査対象となり、禁止されると思います」と推測する。

新宿・歌舞伎町
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
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一方、日本でも同様に民間の自主規制機関・日本広告審査機構(JARO)があるが、イギリスのASAとは大きな違いがある。前述の中村さんは、「JAROとASAの大きな違いは、文化表象の取り扱いの有無だと認識しています。JAROは規制対象が誇大広告など法的なもの、ASAはジェンダーやステレオタイプなど文化表象についても対象とします」と説明する。

つまり、日本のJAROは法を破るような詐欺まがいの誇大広告は規制するが、社会意識に大きな影響を与えるジェンダーステレオタイプや性的表現に関しては、目をつぶっているということだ。

興味深いことに、ASAは昨年2023年の11月に中国のショッピングアプリ「Temu」に掲載されている広告を複数禁止した。そのひとつは8~11歳と見られる女の子が腰に手を当ててポーズをとっている広告で、「その年齢にはそぐわないアダルトなポーズ」として、「子どもを性的に表現することは社会的に無責任だ」と禁止したという。

日本のJAROもASAのように、広告業界の価値観をアップデートする役割を果たすべきではないか。なぜなら、日本人は自分たちが刷り込まれたアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を海外にも発信してしまうからだ。その一例をあげよう。