会社組織にも「明るさ」が必要な理由
「スポーツチームにおいて『明るさ』が大事なのはわかりますが、会社組織でも『明るさ』は必要なのでしょうか? 毎月給料をもらっている以上、会社では黙々と仕事をするのが当たり前ではないですか?」
一定以上の年代の読者の中には、もしかしたらこのような疑問を抱く方もいるのではないでしょうか。
私がメンタルサポートで関わったIさんもその一人でした。
会社で部長職を務める40代のIさん。担当する部の業績がなかなか上がらずに悩んでいました。
「個々の社員がしっかり役割を自覚して働いてくれれば、目標数値は達成できるはずなのですが、なかなかこちらの思うように働いてくれなくて。いったいどうすればいいのか……」
若手社員の頃に高い業績を挙げて管理職に昇進した人の中には、「自分ができたのだから部下にできないことはない」「このくらい頑張って当然だろう」という自分のものさしで部下の仕事ぶりを評価してしまう人がいるものです。Iさんにもそのようなスタンスがうかがえました。
「ところでIさんは普段、部下の方々とコミュニケーションはとっていますか?」
「はい、とるように心がけているつもりです」
「たとえば、どんなふうに?」
「『あの件は、どうなった?』と問いかけると、『はい、このように対応しました』と返答があったりします」
「そのとき、Iさんは部下にどんな言葉をかけるのですか?」
「いや……、『うん』と頷きます」
私自身も会社員時代に経験がありますが、Iさんのように40代、50代で管理職を務めているような人が若手の頃というのは、トップダウン型のマネジメントが主流でした。バブルの頃は特に忙しかったこともあり、職場での会話もいわゆる「報連相(報告・連絡・相談)」を最小限で済ますことが“当たり前”でした。そのためIさんも、それが職場におけるコミュニケーションの定石だと認識していたのです。
仮に、Iさんが部下に対して、
「そうか、しっかり対応してくれてありがとう」
「スケジュールどおりに進んでいて、いい感じじゃないか」
といった言葉がけを付け加えていたら、その部下本人だけでなく、周りで仕事している社員にも「よし、頑張ろう」という前向きな気持ちが伝播したことでしょう。
Iさんには、会話のラリーを心がけ、言葉数を増やしてみる提案をしました。
何も難しい話ではないように思えますが、そもそもIさん自身、若手社員の頃に上司や先輩からそのような言葉をかけてもらった経験がありません。