戯画化される典型的な主婦像
『ビックリハウス』内に出現する主婦の語りは、それが現実に行われたとされるインタビューか創作的な記事かを問わず、丁寧語・女言葉(「ありませんでしょ」「どうかしらね」)、社会的に意識が高く(「風刺」「逆説的に笑いの中から抵抗する」)、小さな日々の幸福を愛でるといった特徴をもつ。【*3】
また主婦たちのそうした態度に編集者陣が冷ややかに反応する(「私、毎日、単に笑って終わってますけど」)、といった流れもよく見られるものだ。
読者の平均年齡が18歳であり、高校生・大学生を中心的な読者とするこの雑誌において、主婦である読者はそれほど多くない。【*4】
そのため、前述のようなインタビュー記事はむしろ少なく、主婦像は編集者や読者によって創作されるものがほとんどだ。
『ビックリハウス』に描かれる「主婦」に典型的な像として、節約が好き、あるいはその必要に迫られている【*5】、手芸が好き【*6】、「紅茶茶碗の茶シブを台所用漂白剤ハイターで一生懸命落」とす、「夫が焼肉やすき焼きの時私のお皿に肉をとってくれる」など、生活のささやかな事柄に幸せを感じる【*7】といった像がある。
これらは編集者や読者によって「小市民」【*8】「主婦根性」【*9】などの言葉で形容される場合もある。
こうした主婦の社会的な意識の高さやささやかな幸せ志向――もっともそれ自体が『ビックリハウス』の編集者・読者によって戯画化されたものだが――に対する編集者の反感は、年を重ねるごとにますます強くなっていき、1983年以降の記事にとりわけ多くみられる。
“腹いっぱいの女”になれ
例えば、アダルトビデオの廃止運動を行う女性に対して「だから主婦ってバカだって言われちゃうんですよ」【*10】といった厳しい評価を下すものもある。【*11】
以下は『ビックリハウス』内のコーナー「メディア・ジャック」【*12】にて、ドラマの性表現に抗議した新聞投書を取り上げた投稿に対するコメントである。
最近主婦のアル中は増える一方であるという。まあ、外に出てウダウダ「仕事」という名目で暇つぶしをしている亭主族に比べれば、家にとじこもりっきりの主婦族のストレスのたまり具合はすごいんだろうな、と思う。せめて腹いっぱいの女になって、ストレスでも解消してください。だから、無茶苦茶なことを電話でいうのはやめてくださいね、お願いします。
(『ビックリハウス』1984年10月号、11頁)