「アセクシャル」の集いを見つける
デートもしたし、キスもした。何より、手をつなぐのが苦痛だった。
「私の場合、キスはそんなに嫌だなという感じではなく、口と口がくっついているという感じで、何でこんな行為をしたいのか、よくわからない。キスはその時だけ済ませればいいけど、手をつなぐのは長時間なので、『あー、まだつなぐんだ』という抵抗感がありました。とにかく、接触がいや。肉体関係って、『何で、そんなのしたいの?』って。ホテルに誘われた時に、それはちょっとナイなって。そこから先は、無理。性行為は知識としては知っているし、他人は他人で好きにしたらいいと思うし、でも、自分事となると無理でした」
1990年生まれ。ミレニアル世代である翠さんは、「デジタルパイオニア」世代。中学や高校時代から、インターネット検索は当たり前で、「恋愛感情が持てない」をキーワードに検索をかけていたが、引っかかるものはなく、大学時代にようやく、それらしいものに出会った。
「今は無き『2ちゃんねる』のスレッドに、『アセクシャル』という人たちの集いを見つけて、ああ私、これっぽいなって。でも当時は一般的なものではなく、当てはまるところもあれば、当てはまらないところもあるなあと。大学時代はそんな感じでいました」
アセクシャルにももちろん、グラデーションはある。特に当初、恋愛感情も性行為も必要としない「アセクシャル」と、恋愛感情は持てないが性行為が可能な「ノンセクシャル」とが当時は混同して語られていたことも、翠さんが確信を持てなかった理由でもあった。
ネットで知った「友情結婚」
大学を卒業した。社会人になって男性と付き合うことになったが、ここで身に染みて、自分には恋愛感情がないことを実感した。
「そもそも、自分の中に恋愛感情というものがないんだと、わかったんです。恋愛する感情がないし、肉体関係もムリだと」
翠さんははっきりと、自分は「アセクシャル」であることを自覚した。自分が、「アセクシャル」だとわかったことは大きかった。
「腑に落ちた感じ。自分はこれだなってわかって、しかも属性の呼び名があることで、すごく安心できたんです。自分が一人だけ“珍人種”なのではなく、ちゃんとカテゴリー分けがされていて、こういう人が他にもいるんだってわかった。どこにいるのかわからないけれど、世界には自分と同じ人がいるんだって、存在を肯定してもらえたと思いました」
「アセクシャル」という自認を得た翠さんは、次に「友情結婚」を検索し始めた。
「友情結婚も、ネットで知ったんです。私の年齢だとネット検索は身近なもので、当時はアセクシャルもけっこう、ネットに出てくるようになっていました」