人生を客観視できる眼差し

子どもを産んでから、翠さんは“ワンオペ育児”の孤独を感じたことはない。夫は責任を持って、一緒に子育ても家事も担ってくれる。

「夜泣きもずーっと泣いている時は変わってくれたりして、優しいお父さん。この人となら大丈夫だと思ったので、2年後に妊活をして2人目も授かりました。保育園のお迎えは私ですが、朝は連れて行ってくれます。お相手の方のことは、人として普通に尊敬しています。共同経営者として、信頼できる人です。友情も愛情もないけれど」

休日には、4人で出かける。子どもの前で笑い合う姿はどこから見ても、ひと組の夫婦であり、家族だ。

ピクニックをする家族
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです

「子どもが実際に生まれてきて、育てることができてよかったです。両親として、子どもとしっかり関わることができていると思います。ラブラブは見せられないけど、二人で笑い合う姿を、子どもには見せられています」

たとえ結婚しない人生を選んでいたとしても後悔はしない。翠さんはそう、キッパリと語る。この決意の揺るがなさ、自身の人生を客観視できる眼差しは、翠さんが安心安全な環境で育ってきたことの証なのか。

アセクシャルは、翠さんの属性の一つでしかない。穏やかさの中に在る、真っ直ぐな芯の強さこそ、翠さんの人としての魅力なのだと心から思う。

黒川 祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション作家

福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。