行政と企業がそれぞれ組織としての正しさを追求した結果

以上の5点を踏まえた場合に、この燃費不正とは国土交通省や経済産業省といった行政組織や三菱自動車やスズキといったなどの企業組織が、それぞれの「正しさ」を追求した結果、起きたものではないかと考えられるのです。

燃費不正というと、「燃費不正をした企業組織に原因がある(燃費不正をした企業組織に「危うさ」がある)」と考えられやすいのですが、しかしそうとは限りません。なぜなら、ここまで述べてきたように、その燃費不正とは「正しい」とされる燃費基準との差異においてあらわになるものだからです。

中原翔『組織不正はいつも正しい』(光文社新書)
中原翔『組織不正はいつも正しい』(光文社新書)

ただし、その「正しい」とされる燃費基準自体が日本独自のものであり、かつ(WLTPなどの国際基準からすると)アブノーマルなものであった場合にはどうでしょうか。それでも三菱自動車やスズキなどの企業組織だけに原因があるのでしょうか。

私は、そうは思いません。むしろ、そうやって「正しい」ことの一面ばかりを取り上げることに、やはり無理があると感じます。

そのため、私はむしろ行政組織も企業組織も「正しい」ことを追い求めた結果として燃費不正が生じた、と考えています。

全員が「正しい」ことをすれば、全体としては「正しい」方向へ向かうと考えられがちですが、そうでもないのです。全員が「正しい」ことをしているにもかかわらず、全体として「危うい」方向へ向かうことも当然ながら考えられるからです。

中原 翔(なかはら・しょう)
立命館大学経営学部准教授

1987年、鳥取県生まれ。2016年、神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。同年より大阪産業大学経営学部専任講師を経て、19年より同学部准教授。22年から23年まで学長補佐を担当。主な著書は『社会問題化する組織不祥事:構築主義と調査可能性の行方』(中央経済グループパブリッシング)、『経営管理論:講義草稿』(千倉書房)など。受賞歴には日本情報経営学会学会賞(論文奨励賞〈涌田宏昭賞〉)などがある。
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