あまりにも短かった17年の命
その夏、里子たちとの海外旅行から帰ってきた坂本家のFAXには、溢れんばかりの大量の紙が渦巻いていた。何事かと手繰り寄せたFAXには、信じられないことが書かれていた。
「純平くんがバイク事故で、亡くなりました」
17歳で、帰らぬ人となった純平くん。あまりにも短い人生だった。生前、純平くんが坂本さんに書いた手紙に、こんなことが書かれていたという。
「もう生きるのを、やめようかと思ったけど、この家があるから、生きることに決めたんだ」
純平くんの死は、坂本さんにとって受け入れ難いことだった。
「彼の人生に、生まれてきていいことってあったの? 幸せなことは、あったの? って。親がない子どもっていうのは、こんな残酷なことになるんだって」
ただただ、悔しく、涙が止まらなかった。初めての大事な里子、かけがえのない子だった。
「魚を置いて行って、すぐに電話もくれたんだよ、『お母さん、食べたか?』って。今置いて出て行ったばっかりなのに、そんなに早く食べられるわけないでしょう? って笑ったよね。優しい子でした」
思えば、今でも涙が込み上げる。純平、あなたは私に会ってよかったの? 人生で幸せと思えたときはあった? それを知ることもできないまま、純平くんは星になった。
(後編へつづく)
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。