ストーカー被害から殺害事件へと発展するケースは少なくありません。ストーカー被害者の多くが警察に一度は相談に行っているのにもかかわらず、なぜ最終的に殺されてしまう女性が絶えないのでしょうか。弁護士の鮫島千尋さんは「ストーカー事件と警察が認定するには2つの要件を満たす必要があります。ストーカーが『恋愛目的ではない』と主張し、事実を認めない場合には、警察が動かないこともあります」といいます――。

同僚に突如見せられた自分の盗撮写真

今回は職場でストーカー被害にあったという女性の事例を紹介します。実際にストーカーによる殺害事件も起きている今、万が一ストーカーに狙われたらどうしたらいいか、何をするのはNG行動かなど、本記事を参考に身に迫る危険を回避いただければと思います。

※本記事はプライバシーを考慮して、傍聴した裁判や見聞きした文献や裁判例、過去携わったさまざまな事件などをもとに、事実を一部変更してお届けしております。あらかじめご了承ください。

ある弁護士事務所に母親と一緒に訪れた依頼者は大学に入ったばかりの、女子大生だったといいます。女性が、ある日いつものようにアルバイトに行くと、話したことがない社員男性Aから声をかけられたといいます。

「コンビニ弁当ばかり食べずに、たまには自炊もしたら?」

スーパーで商品を選ぶ人
写真=iStock.com/Natissima
※写真はイメージです

愛想笑いをしつつ何のことかと考えを巡らせていると、男性がスマートフォンの画面を見せてきました。そこには、女性がコンビニでパスタを選んでいる写真があったのです。

突如の説教にフリーズ…

女性が驚きのあまり固まっていると、「実はここ数日あなたの後をつけてたんだ。そしたら、ずっとコンビニ弁当だし、男性と夜遅くまでデートしたり朝帰りしたり……若い女の子が危ないんじゃないの? 自炊した方が節約にもなるよ」と説教をしてきたというのです。

恐怖にかられた女性は「気をつけます」などとその場をにごし、あくまで平静な様子を装いながら逃げ出しました。

女性が電話で男性Aの上司に相談したところ、上司から人事に話がいき、男性Aは減給処分になったそうです。被害女性は、男性とこれ以上関わりたくないとの思いから、アルバイトをやめざるを得ませんでした。

被害女性が、担当弁護士にした依頼は「ストーカーのせいで予定していた収入がなくなった分や、不要にお金がかかった分を取り戻したい」というもの。男性に声をかけられてから、家がバレていることによる身の危険を感じ、新居が決まるまでの間、ネットカフェや友達の家を転々として暮らしていたそうです。引っ越し代も含めてかかった費用、約60万円を男性に請求したいという内容でした。