昭王から剣を贈られ「なぜ死を賜わるのか」と自問

渡邉義浩『始皇帝中華統一の思想「キングダム」で解く中国大陸の謎』(集英社新書)
渡邉義浩『始皇帝中華統一の思想「キングダム」で解く中国大陸の謎』(集英社新書)

そうしているうち、昭王から白起のもとに1本の剣が届く。その意味するところは、「自刃せよ」、つまり死の宣告である。この時代、死刑に処せられるのは身分の低い者に限られ、階級の高い者は自裁(自ら命を絶つ)するのが慣わしだった。日本の武士の切腹と同じである。

死の直前、白起はなぜ王から死を賜るのか自問自答した。そのとき長平の戦いで捕虜を生き埋めにしたことを思い、「私は天に対して罪を犯したのだ」と嘆いた、と伝えられている。庶民たちは白起の死をあわれみ、各地に白起を祀る廟が建てられたとも史書は記している。

実際、白起の死は秦にとって大きな痛手であった。まさに国の軍神にふさわしい活躍を続けた白起の死後、統一に近づきつつあった秦の動きが一時停滞したほどだ。秦が再び活気づくには、呂不韋の登場を待たなければならない。そこからがいよいよ、『キングダム』時代の幕開けである。

渡邉 義浩(わたなべ・よしひろ)
早稲田大学文学学術院教授、三国志学会事務局長

1962年生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科修了、文学博士。専門は中国古代史。著書に『後漢国家の支配と儒教』『諸葛亮孔明 その虚像と実像』『図解雑学 三国志』『三国志 演義から正史、そして史実へ』『魏志倭人伝の謎を解く 三国志から見る邪馬台国』などがある。新潮文庫版の吉川英治『三国志』において、全巻の監修を担当した。