5つの家族ごとに監視し合わせる共同責任の制度を作った

告発されなかった悪事が発覚すると、5家族全員が処罰される。事前に知っていたのに報告しなかった者は、身体を胴で真っ二つにする「腰斬」に処された。その代わり、不正や反乱を告発した者には、戦場で敵の首をとった者と同等の褒美が与えられたという。それぞれの宗族が祖先神として祀っていた、各地の「社稜」や「宗廟」もことごとく破壊の対象になった。破壊された社の上には布が被され、天の加護を遮った。宗教的な地域の結びつきも完全に否定したのだ。

ここまでを簡単にまとめよう。秦に住む庶民なら、「分異の令」と「什伍の制」によって次のようなことが起こる。あなたは先祖代々、永らく住んでいた土地から追い出される。昔から、苦しいときも共に助け合って生きてきた親戚や、仲の良かった知人と会うこともできなくなってしまった。

移住先の新しい土地では、見知らぬ一家の隣に住まわされ、ご近所同士で相互監視を命ぜられる。問題を起こす人がいたら自分たちの家族も処罰されるので、それを避けるには、近所の人に怪しいところがないか監視し続けなければならない。ほかの家も、自分たちに厳しい目線を向けている。しかし、もし大問題の芽を誰よりも早く見つけ、告発できれば大きな褒美が手に入る――。

永らく住んだ土地から移住させられる民
出典=『始皇帝中華統一の思想「キングダム」で解く中国大陸の謎』、漫画『キングダム』(原泰久作、ヤングジャンプコミックス)23巻より ©原泰久/集英社