※本稿は、渡邉義浩『始皇帝中華統一の思想「キングダム」で解く中国大陸の謎』(集英社新書)の一部を再編集したものです。
主人公「信」のモデルは始皇帝に仕えた英雄・李信
『キングダム』は、戦災孤児でなんの後ろ盾もない信が大将軍を目指す姿を追う物語だ。この立身出世を可能にするのが、「軍功爵制」である。
ひとことで言えば、戦で手柄を立てれば、手柄に見合った出世ができるという仕組みだ。こうした制度はどの国でも取り入れてはいたが、秦の場合は徹底しており、生まれが下僕であっても、大将軍への道を用意している点が他国とは異なる。他の六国では、野盗出身の桓騎のような将軍はありえない。
実際、信のモデルとなった李信は、戦国時代に多くの軍功を挙げて将軍の位にたどり着き、秦の統一に貢献した。歴史上の李信が『キングダム』の信のように孤児だったかどうかは不明だが、秦では庶民階級から将軍に上り詰めることも決して絵空事ではなかった。軍功を挙げた者には、地位だけでなく家や土地も与えられる。