人気漫画『キングダム』(作:原泰久)の映画版第4弾『キングダム大将軍の帰還』が7月12日に公開される。古代中国思想史の研究者である渡邉義浩さんは「物語の舞台となる秦国は、始皇帝が生まれる100年ほど前に政治改革を行って国内のすべてのリソースを戦争に投じ、歴史の流れより数百年早く中華統一を達成する道筋をつけた」という――。

※本稿は、渡邉義浩『始皇帝中華統一の思想「キングダム」で解く中国大陸の謎』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

主人公「信」のモデルは始皇帝に仕えた英雄・李信

キングダム』は、戦災孤児でなんの後ろ盾もないしんが大将軍を目指す姿を追う物語だ。この立身出世を可能にするのが、「軍功爵制」である。

ひとことで言えば、戦で手柄を立てれば、手柄に見合った出世ができるという仕組みだ。こうした制度はどの国でも取り入れてはいたが、秦の場合は徹底しており、生まれが下僕であっても、大将軍への道を用意している点が他国とは異なる。他の六国では、野盗出身の桓騎かんきのような将軍はありえない。

実際、信のモデルとなった李信りしんは、戦国時代に多くの軍功を挙げて将軍の位にたどり着き、秦の統一に貢献した。歴史上の李信が『キングダム』の信のように孤児だったかどうかは不明だが、秦では庶民階級から将軍に上り詰めることも決して絵空事ではなかった。軍功を挙げた者には、地位だけでなく家や土地も与えられる。

王騎と信
王騎と信。周から春秋時代までは、王騎が治めたような城でひとつの国だった。城壁の外までは支配できていない。出典=『始皇帝中華統一の思想「キングダム」で解く中国大陸の謎』、漫画『キングダム』(原泰久作、ヤングジャンプコミックス)10巻より ©原泰久/集英社