正社員になれる人はすでになっている

この事例でもわかる通り、社会状況を緻密に読み解く努力をおざなりにし、なんでも「氷河期」で片づけすぎている。それが続くことで、実体以上に氷河期被害が人々の心の中で幅を利かし、ここに政策資金が集中する。そうして、その多くが無駄になっている。

連載の冒頭に書いた「就職氷河期世代支援プログラム(3年間の集中支援プログラム)」は、当時審議員だった私の反対など何の足しにもならず、1000億円単位の予算が付いた。

その無駄金で催される「氷河期世代向けイベント」に、皮肉なことに私が呼ばれることが多々あった。

イベントでは顔見知りのキャリアコンサルタントやサポステ職員から声をかけられる。

そして皆、決まり文句のようにこう話す。

「氷河期世代向けにやることなんて、もうありません。なれる人はすでに正社員になっていて、これ以上は無理です。ほかにお金を使ってもらいたいことは、たくさんあるのに、氷河期ばかりに目が向けられて……」。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。ヒューマネージ顧問。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。