厚生労働省は5年に1度行われる公的年金の財政検証の結果を公表した。年末に向け制度改革の検討が始まる。雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんは「検討課題の1つに就職氷河期世代を念頭にした低年金問題がある。前回の記事では非正規対策を公約にした蓮舫氏の的外れを指摘したが、都知事選の結果はその通りとなった。低年金対策も氷河期、非正規を念頭にすべきではない」という――。
記者会見する林官房長官=2024年7月3日午後、首相官邸
写真提供=共同通信社
記者会見する林官房長官=2024年7月3日午後、首相官邸

また「氷河期世代」のために大金が費やされるのか

ふと、ネットから、こんなニュースが流れて来た。

「氷河期世代」念頭に低年金対策 厚生年金活用、負担増で難航も(7/4時事ドットコムニュース

「氷河期世代の年金額は老後も減り続け、生活保護に陥るリスクが高くなってしまう。40年ごろまでに改善効果が出る低年金対策を講じる必要がある」(慶応大学/駒村康平教授)とのことだ。

また大金が無為に費やされるのか……。私は少し頭が痛くなった。

私が厚生労働省の労働政策審議会委員を務めていた頃にも大規模な「就職氷河期世代支援プログラム(3年間の集中支援プログラム)」が実施され、大金が流れた。審議会で私は、データを尽くしてこの無意味な国費投入に反対し続けたものだ(が、何の足しにもならず、事業は粛々と実行されていった)。

その事業総額を厚生労働省ホームページで調べると「就職氷河期世代に関連する施策(内数表記となっている施策)も含めた合計額は、1473億円程度(令和3年 度予算:1262億円程度)」とのことである(令和4年度概算要求 就職氷河期世代支援予算の概要)。

はあ――政府にとっては微々たる予算額かもしれないが、世間的に見たら気の遠くなるほどの国費が、氷河期対策という名で垂れ流されている……。

大切な予算は、ありもしない「氷河期世代問題」ではなく、あらゆる世代の就労困難者のために使ってほしい。そのために、この記事を書く気になった。

氷河期世代者の就労状況とはいかがなものなのか。二回にわたり、じっくり示していく。

氷河期世代非正規の大半は、「主婦パート」

まず、厳しい就職氷河期が騒がれた頃に就職した人たち(現在40代後半、現役ストレートなら1997~2001年大卒)の就労状況を2023年の労働力調査で確認すると、総雇用者692万人に対して、非正規就労者が204万(雇用者の29.5%)にもなっている。

すわっ! 働き盛りの年代層の3割が非正規か⁈ ――確かに、上辺の数字は大変なことになっている。

ただ、内訳を見て行くと、景色は全く変わっていく。

この非正規就業者の男女比は以下の通りだ。

男性30万人、女性175万人(端数処理で総数と1万人誤差あり)と、非正規の実に9割近く(85.7%)が女性なのだ。男性はというと、非正規数は30万人とかなり小さくなり、一方で、正社員就労数は331万人、実に91.7%が正社員となっている(これが他世代と比べてどうなのかは、後ほど考察する)。

対して、女性の正社員比率は47.3%であり、過半数の52.7%が非正規となる。

ここで一つ目の結論が出る。氷河期世代に非正規が多いというけれど、その大多数は女性なのだ。他のどの世代でも同様に、男性よりも圧倒的に女性の非正規就労数が多く、非正規割合も著しく高くなっている。

続いて、この大多数を住める女性の非正規就業者を婚姻状況で分けてみよう。

独身(未婚・死離別)37万人、既婚142万人。

そう、女性非正規の約8割が「既婚者(=主婦)」なのだ。そう、「氷河期世代の非正規」の中身は、圧倒的に「主婦パート」が多いということだ。

これが二つ目の結論となる。

【図表】「超氷河期世代」の非正規就労者内訳
※図表=筆者作成