氷河期対策は集中的に行われてきた

ネットで「氷河期世代」の記事を探すと、有名な識者や氷河期の代表的な言論人から、「政府は何もしなかった」「対策は遅く小さすぎた」という記事が、今でも多数ヒットする。これは大嘘だ。図表5の通り、政府は2000年前後から早々に組織を立ち上げ、この世代に対策を集中してきた。

【図表】就職氷河期世代を対象とした調査や政策
※図表=筆者作成

表中にあるジョブカフェやサポステなどの常設型支援所のほか、試行雇用制度、Jobカードに代表される採用助成制度も拡充された。すでに書いた通り通常でも中堅・中小企業を中心に新卒無業者は時間をかけて自然吸収されていく。東京大学副学長の玄田有史教授の研究によると、それは10~15年ほどの期間を要するとのことだ。ただ、氷河期世代に対しては、政策・制度が集中されたために、この吸収を促進したことは、ここまで示したデータからもお分かりいただけるだろう。

前回示した通り、その結果、超氷河期大卒組の男性非正規就労数は、人数でも比率でも、前後の世代よりも少なくなっている。

雇用の素人集団の妄言

2回にわたって書いてきた、氷河期問題の真相はいかがだったろう。

あたかも、氷河期世代は、就職できなかった人が圧倒的多数で、できた人も無名の中小ばかり。そして、日本は新卒時点で非正規だとその後は正社員になれないから、ミドルになっても非正規労働者ばかり……。そんな氷河期世代像は、現実とは恐ろしいほどかけ離れた虚像でしかないのが、お分かりいただけただろう。

にもかかわらず、何かというと「氷河期」は政府やマスコミに取り上げられ、そして、金が流れる。以下の記事など、その不整合を誰も指摘しないのが不思議なくらいだ。

「3日、政府の経済財政諮問会議で(中略)年代別の世帯の所得の変化について、バブル崩壊後の1994年と2019年を比べた調査結果を報告しました。それによりますと世帯の所得の中央値は、いわゆる「就職氷河期」世代を含む35歳から44歳の世代では104万円減少していたほか、45歳から54歳の世代では184万円減少していたとしています。

(中略)こうした結果を受けて岸田総理大臣は(中略)包括的な施策を取りまとめるよう野田担当大臣に指示しました」(2022年3月3日NHK政治マガジンより)

2019年時点で45~54歳の人は、その半数が「バブル期の学卒者」となる。この世代の世帯年収が184万円も減少しているのは、「氷河期」では説明がつかない話だろう。

これなどは、経済財政諮問会議という「雇用の素人集団」のまさに妄言なのだ。この間の世帯収入の減少は①景況によるボーナスダウン(バブル時代が異常なほど高賞与だった)、➁当時55歳定年の企業も多く、その後2回の雇用延長(1994年60歳義務化・2013年65歳義務化)がなされた。こうした雇用の長期化に伴い、ピーク年収の平準化が行われたこと、③脱年功給を期したミドル年代の給与制度の変更、④離婚や未婚などによる世帯構成員の減少と世帯数の増加、⑤自営業の衰退で会社員数が増加し低年収層が増えた、などの理由が考えられる。